第6話

 お昼になり、水族館内の食堂でお昼を食べることになった。結城はスパゲッティーを注文し、氷は水族館限定の亀さんハンバーグプレートなるものを注文する。ハンバーグが亀の形になっている可愛い昼食に、氷は眼を輝かせていた。


「可愛い。結城さん、あーん」


 氷はハンバーグを一口サイズに切って、結城に食べさせようとする。だが、結城はそれから顔をそむけた。


「だから、ロリコンだと思われる!」


「兄弟だとしか思われませんよ。はい、あーん」


 語尾にハートマークを付けそうな甘い声に、ごほんと咳払いをするものがいた。愁である。里奈の兄である愁は、公衆の面前で教師のような厳しい顔でいう。


「公衆の面前でそういうことをするのは、どうかと思うぞ」


 愁の言葉に、修平は「いいじゃん。減るもんじゃないし」と軽い言葉を返す。この二人は双子であるが、愁は男女交際に異様なほどに厳しく、修平はかなり寛容である。


「じゃあ、私もお兄ちゃんにあーん」


「あーん」


 修平は、里奈に食べさせてもらったミートボールを咀嚼する。


 修平は、愁に殴らたれた。


「だから、公衆の面前でそういうことをするな。はずかしい」


「はずかしくないだろ。可愛い妹からの愛情表現だぞ」


 修平は、ぷいっとそっぽを向く。


 里奈は愁にも「はい、あーん」とミートボールを向けた。


「里奈、だから俺もいらないと……」


 だが、愁も里奈の頼みは断れなかったらしくミートボールを飲み込む。


「あ、ずるい。愁のやつミートボール食べた!」


「仕方がないだろ!」


 と愁は怒鳴る。


「いいなー。楽しそうで」


 いちゃいちゃする兄弟をしり目に、秀紀は虚無の目をしていた。水族館に来ているというのに、彼だけ女っけがないのが悲しいらしい。だが、周囲の女も小学生と身内というものなので交換してほしいものではない。だが、近くに女の子がいないのも寂しい。


「秀紀、できるのならば交換してくれ」


 結城はそう思った。


 だが、氷は顔をしかめて顔をふる。


「交換してくれなんてひどいですね」


 ぷんぷんと怒る氷だが「あーん」の件はあきらめたらしい。あきらめて、自分のハンバーグを食べ始める。だが、手が止まった。


 きっとまずいのだろう。


 実は水族館のごはんのまずさは有名なのだ。だから、結城はスパゲッティーを注文した。こういうものは、味にさほど変化がないからだ。何故かは知らないが、結城はたぶんソースがレトルトのせいだろうと踏んでいる。


「交換するか?」


 結城が、氷に尋ねた。


「えっ……でも」


 さすがにまずいものを結城に押し付けるのは気が引けるらしい。

 そこらへんは、さすがに兄弟とはちがうところだ。ちなみに、さっきの理奈の「あーん」はまずいミートボールを兄に押し付けていたのである。


 氷の皿は放っておいても減らないので、結城は勝手に自分のさらに氷の皿を入れ替えた。


「ほら、こっちを食べろ。ハンバーグよりも数段マシだから」


 氷は、恐る恐るスパゲッティーを食べた。


「美味しい……」


 小さく呟く、氷。


 ここのスパゲッティーはそんなに感動するほどに美味しいものではないのに、と結城は思った。


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