第2話

 結城は、頭を抱えていた。もうすぐに三年生に進学するというのに厄介なことに巻き込まれてしまった。小学生に告白された。しかも小学三年生の女の子に。


「よー、結城ちゃん」


 悪友の津島秀紀が、結城に声をかける。


 放課後の人気がある時間に告白されたされたせいで結城が、小学生から告白を受けたということは有名になってしまっていた。


「また、あの子が門の前で待っているぜ」


 秀紀が教室の窓から、校門を指さす。


 そこには小さな影が見えた。 


 氷である。


 氷は、白い顔をさらに白くさせて結城を待っていた。氷は美しい少女だった。艶のある黒髪に、賢そうな瞳。女子を意識し始める同学年には肩の荷が重いかもしれないが、中学生になったらきっとかなりモテるタイプの子だろう。そんな子が、自分に告白してくる。しかも、結城は氷との接点をまるで思い出せなかった。


 普通の高校生には、小学生と友好を温めるような機会はないというのに。


「さて、今日も熱烈な告白かね」


 秀紀はからかうが、それが結城の悩みの種である。


 ずっと氷は、放課後に結城に告白を続けている。なぜ、告白を続けているのかは分からないが、続けていたら結城の心が自分に傾くと信じているようでもあった。それが嫌で結城は夕方まで学校に閉じこもることを選んだこともあったが、氷も夕方まで待っていたので作戦は中止された。


小学生を夕方まで一人にするのは危ないし、何かがあったらさすがに良心が痛む。そのため、結城は授業が終わると速やかに帰って、小学生を振ると言う作業を続けている。


 そうだ、作業だ。


 毎回告白されるが、それをそっけなく断る作業。


 絶対にOKなんてできないし、してはいけない。


 そんなことをしたら、結城はロリコンになってしまう。


 断言できるが、結城はロリコンではないのだ。


「先輩。なにを悩んでいるんですか」


 重い足取りで校門まで行こうとしていると、後輩の理奈に声をかけられた。里奈は溌剌と

した美少女だ。だが、結城と同学年の双子の兄たちが里奈に手を出すと怖いことも有名なので、恋人は現在もいないはずである。


「最近、ロリコンっていわれそうな案件があってな」


「ああ、校門のところの小学生ですね」


 里奈の耳にも届くほどに、氷の件は有名になっているらしい。


 結城は頭を抱えた。


「いっそのこと告白をOKしちゃって、大きくなるまでまっていたらどうですか。光源氏計画で」


「そんな変態臭いことができるかよ」


 紫式部の現役時代ならともかく、今の時代にそれをやったらただの変態であろう。いや、時代で子供に手を出していないから光源氏は紳士なのだろうか。分からないし、分かるつもりもない。現代人の感覚からすれば、立派な変態野郎である。


「それにしても、あの子はどこで結城先輩のことを好きになったんでしょうね」


 里奈は首を傾げた。


 里奈も結城が小学生と接点ができるような生活をしているとは思っていなかった。だからこそ、どうして告白されたかが気になっていたのである。


「それが思い当たらないんだよな。別に俺は小学生と接点があるわけでもないし」


 そんなことを里奈と話していたら、いつの間にか校門の小学生の姿は消えていた。結城は、そのとき今日に限っては氷が飽きたのではないかと思った。だが、それは杞憂であった。

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