樹海の女
ツヨシ
第1話
快晴の日にハイキングに行った。
青木ヶ原の樹海の遊歩道だ。
遊歩道に入ろうとしたとき、俺よりも先に女が一人、足を踏み入れた。
小柄でやけに痩せた長い黒髪の若い女。
何かを感じた俺は、静かに女の後をつけた。
女は遊歩道を歩いていたが、突然道を外れて森の中に入っていった。
――もしかして……。
俺は女に気付かれないように、その後について行った。
女はしばらく歩くと、手にしたバッグから何かを取り出した。
先が輪になった太い縄。
女は木の横の小さな岩に登り、太い木の枝にその縄を結びはじめた。
俺は女に近づいた。
女が気付く。
女は何か言おうとしたが、俺はかまわず女を抱え上げるとそのまま遊歩道へ走った。
女が俺の腕の中で暴れたが、どうということはない。
女は平均よりもはるかに軽い身体。
おまけに俺は現役のラグビー選手なのだ。
女がどうにかすることはできない。
「離して! 死なせて!」
女はわめきだした。
何度も何度も。
俺はそれを無視して遊歩道に出て、そのまま出口まで走った。
そして遊歩道を出たところで叫んだ。
「誰か! 自殺者だ!」
何回か叫ぶと、数人集まってきた。
その中の体格のいい男に話しかけ、いっしょに女を押さえてもらった。
中年の女が警察に連絡し、しばらくするとパトカーがやってきた。
女は警官に促されてパトカーに乗り、その場から去った。
あれから一ヶ月ほどたったある日。
家でくつろいでいると、ふと気がついた。
外からじっとこちらを見ている女がいるのだ。
あのとき樹海で会った女だ。
どうして俺の家がわかったのか。
女は狂気というか殺意というか、今まで誰の目にも見たことがないほどに鋭い目で俺を見ていたが、やがてどこかへ立ち去った。
女が初めて俺の家に来てから三年の月日が流れた。
しかしあの女はいまでも家の外から俺を見ているのだ。
終
樹海の女 ツヨシ @kunkunkonkon
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