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「はあ。」


しばらくの沈黙ののち樹くんの深いため息が聞こえ、思わず身を小さくした。

怒っているのかと思いきや、その顔は呆れたような困ったような表情で、何だか申し訳ない気持ちになってくる。


「姫乃さん結婚遅くなるよ。それでもいいの?」


するどい指摘に私の決意は揺らぎそうになった。

本当は三十歳までに結婚したい……なんて淡い夢も描いていただけに、図星過ぎて耳が痛い。


「うっ。……しかたないよね、私がそう選んだんだから。樹くんとは結婚できなくなっちゃうけど……、ほら、おみくじに焦っちゃいけないって書いてあったし。だから……。」


口に出すと実感がわくのか、急に胸が締め付けられた。体の奥からわき上がる想いがじわりじわりと瞼に集まってくる。それはやがてポロポロと涙に変わってこぼれ落ちていた。


「何で泣くの?俺、結婚断られたからって姫乃さんと別れる気ないから。それにおみくじの焦るとダメは恋愛運。結婚は別じゃん。」


樹くんは私の頬に触れると、そっと涙をすくってくれた。その手つきが優しくて余計に涙を誘う。


「俺さ、立派になって帰ってくるから、それまで待っててくれる?」


「……待ってていいの?」


まさかの言葉に私は驚きを隠せず、涙が一瞬引っ込んだ。

驚愕の表情で樹くんを見ると、目を細めて甘く微笑む。

それがとてつもなく色っぽく見えた。

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