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そして樹くんは席を立ち、私の横まできて左手を取った。

何事かと、樹くんを見上げる。


「俺に着いてきてほしい。結婚してください。」


突然のプロポーズにドキドキと胸が高鳴る。

嘘?

本当に?

すごく嬉しい。

身体中から嬉しさが溢れ出そうになった。


だけど……。


「それは私が仕事をやめてついていくということだよね?」


一応確認してみる。

すると樹くんはコクンと頷いた。


「そうなるね。」


私は口をつぐんだ。

私も新しい部所のリーダーに抜擢されたのだ。

樹くんのエリートコースとは遠く及ばないけれど、私もきちんと評価されたことが嬉しくて仕事にやりがいも見出している。

結婚して樹くんのお嫁さんになることはとても嬉しくて幸せで夢のようだけど、二つ返事で承諾することはできなかった。


「……少し考えさせてほしい。」


ポロっと出た言葉に、自分自身動揺した。

樹くんも怪訝な表情になる。


「あ、いや、結婚はしたいし、プロポーズされてすごく嬉しいんだけど、仕事をやめて海外に行くっていうイメージが湧かなくて。だから、……ごめんね。」


「いや、いいよ。俺も納得して着いてきてほしいし。考えてみて。」


「……うん。」

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