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さっそく樹くんへ報告したく探すも、忙しいのかなかなか席に戻る気配がない。
結局ウズウズしたまま終業時刻になり、一人家に帰って夕食の準備をした。
そうこうしているうちに樹くんも帰ってきた。
同棲しているわけではないけれど、恋人になってからも変わらず一緒に夕食をとっている。
きちんと手を洗ってから席に着く。
いただきますと挨拶してから箸を付ける、当たり前の行為だけれど大事なことが自然とできる樹くんに、私は内心嬉しく感じている。
「茄子の煮浸し美味しい。」
「本当?嬉しい!」
自分の作った料理を美味しいと言って食べてくれることにも、嬉しさがじわじわと体いっぱいに広がっていく。
幸せだな……。
自然とそんな風に感じられる日常がとても愛しく思えた。
樹くんが箸を置いたので、そろそろ仕事の話を切り出そうと口を開けたところだった。
突然樹くんが真剣な表情で私を見据える。
「姫乃さん、俺、転勤になった。」
あまりに真剣に言うので、私は自分の伝えたかった言葉を慌てて飲み込んだ。
「転勤?どこに?」
努めて冷静に聞いたつもりだが、少し声が掠れてしまった。心なしか心臓が音を立てて動き出す。次に紡がれる言葉を息が止まるかのごとく静かに待った。
「ベトナム。」
「……海外なの?」
「新規プロジェクトの立ち上げメンバーとして行くことになった。数年行くことになりそうなんだ。」
「数年?」
おうむ返しのようにしか返事ができない。
それくらいに私は動揺していた。
だってまさか海外に転勤だなんて、予想だにしていなかったからだ。
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