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「ねえ姫ちゃん、相手大野くん?」


「し、祥子さん何でっ。」


声を潜めて聞いてくる祥子さんに私は慌てふためき、一気に体温が上がった。別に隠すようなことではないけれど、言い当てられるといささか恥ずかしさを覚える。

そんな私の態度は明らかに肯定していて、祥子さんは目を細めた。


「やっぱりね~。レクリエーションの日、姫ちゃんカード探しに戻ったじゃない?あのあと駅で大野くんに会って姫ちゃんはって聞かれたのよね。カード探しに戻ったって言ったら怒った顔で探しに行ったからさ、何か怪しいと思ったわけ。」


「はあ、そうだったんですか。」


まるで名探偵並の推理に、私は笑うしかなかった。まさかそんな時から疑っていたなんて、祥子さんは鋭い。

でもそのおかげで樹くんは私を探しにきてくれて、結果助かったわけだけど。


あの日のことを思い出すとまだ鳥肌が立つ。

あれから早田課長はとても静かになっていて、私に仕事を頼むこともなくなった。

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