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樹くんが予約してくれたしっぽりとした旅館はとても静かで雰囲気がいい。

食事は部屋食で、テーブルの上にはたくさんの料理が素敵な器に盛り付けられ所狭しと並んでいた。

部屋食だとなおさら旅行っぽく特別感がある。美味しい料理も大きな露天風呂も堪能し、身も心もホクホクと満足した私は上機嫌で部屋へ戻った。


襖を開けるとすでに布団が敷かれていて、綺麗に二枚並んでいる。


そうだった、樹くんとお泊まりなんだ。

忘れていたわけではないけれど、視覚として情報が入るととたんにドキドキと心臓が音を立てる。

樹くんと隣同士で寝るなんて初めてだ。

これはもしかして、もしかするかも?


どぎまぎしながら恐る恐る樹くんを見ると、拍子抜けするほどあっさりと布団に入った。

私だけが期待して緊張していたみたいで何だか恥ずかしい。

でもたくさん観光したし、樹くんも疲れたんだろうな。


そう自分を納得させたときだった。


「どうしたの?寝ないの?」


「ん、寝るよ。おやすみなさい。」


急に話しかけられドキッとするも、私は努めて冷静に答え布団に入る。

危ない危ない、期待してしまっていたのがバレたのかと思った。


「そっちじゃないでしょ。」


「え?」


言われた意味がわからなくて首をかしげる。


「一緒に寝るでしょ?」


「一緒に?」


「一緒に。」


一緒に寝るって、それってもしかして樹くんと初めての……。


一瞬のうちにあらぬことを想像してしまって、一気に顔が赤くなった。


「何を想像したの?」


「何でもない。」


私は慌ててそっぽを向いた。

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