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樹くんは紙皿に焼きそばとお肉をモリモリのせて戻ってきた。受け取るとずっしりとした重みがある。
「こんなに食べれないよ。」
「残ったら俺が食べるからいいよ。」
「じゃあいただきまーす。」
樹くんが割り箸を割ってくれて、私は焼きそばを口に入れる。ソースがいい感じに絡まっていて美味しい。
「美味しい。あ、餃子もある。 」
焼きそばをかき分けると餃子も何個かあった。
なんだかお得に感じて嬉しくなる。
「俺にもちょうだい。」
お箸を渡そうとすると樹くんは口を開けて待っていて、私は躊躇う。
これって、餃子を口に入れてあげればいいんだよね?
恐る恐るお箸を樹くんの口元に持っていくと、樹くんはパクリと餃子を食べた。
モグモグと咀嚼するその動きをまじまじと見てしまう。
樹くんにあーんしてしまった。
しなかったとしても、自分が食べてる箸をそのまま渡そうとしていたことに、今更ながら恥ずかしくなってしまう。
こういうのって気にしないの?
気にするよね?
心が大荒れの中そっと樹くんを見ると、バチっと目が合った。
「何?姫乃さんも食べさせてほしいの?」
「はっ?えっ?いや?全然?」
「しょうがないなー。」
「いやいや、言ってないよ。」
慌てて否定するけれど、樹くんは私からお皿とお箸を奪うと、上手な箸使いで私の口元に餃子を持ってくる。
「ほら、口あけて。これ、チーズ餃子だったよ。」
断ることも許されない距離に、私はおずおずと口を開ける。優しく入ってきた餃子は、ひと噛みするとチーズの香りが鼻を抜けた。
「ほんとだ、チーズ入ってる。美味しいね。今度餃子パーティーしよっか。渚ちゃんも呼んで。」
「渚も呼ぶの?俺は二人きりがいいけど。」
「皆で食べた方が楽しいじゃん。」
「俺と二人じゃ不満?」
「そういうことを言ってるんじゃないってば。樹くんの意地悪。」
思わず膨れると、樹くんはクスクスと笑う。
私をからかって楽しんでいるのが何だか悔しい。
「ごめんごめん。仲直りしよ?姫乃さんこっち向いて。」
素直に樹くんの方を向いた瞬間、
ちゅっ
っと可愛らしい音が聞こえると共に、唇に感じる柔らかな感触。
それが何なのか、理解するのに時間がかかった。けれど理解したとたんに私の頬は一気に赤くなる。
「樹くん!」
抗議の声を上げて樹くんをぽかぽかと叩いたけれど、樹くんはとても楽しそうに笑っていた。
ああ、心臓が痛い。
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