36
祥子さんのおかげ(せい)で、たった数日の間に”朱宮姫乃が彼氏と別れた”という噂が瞬く間に広まった。
望んでいた展開なのに、本当にそれでよかったのかどうなのか。
吉と出るか凶と出るか。
ハラハラと過ごすこと数日、何もないままあっという間に金曜日になった。
ケーブルを借りに来た樹くんが声を潜めて聞いてくる。
「姫乃さん、彼氏と別れたって噂回ってきましたけど。」
ギクリと肩が震えた。
「どうしよう樹くん。祥子さんと真希ちゃんと今日飲みに行くことになってしまって。彼氏と別れたこと、吐き出してスッキリした方がいいって言われて。私、どうしたらいいの?」
樹くんは小さく息を吐き出す。
「…断ればいいのに。」
「だって祥子さんが強引に。」
「ふーん、適当に当たり障りのないこと言えばいいんじゃない?」
「冷たいなぁ。」
「ていうか俺との夕飯より飲み会優先するんすね。」
「あ、そっか。ごめん樹くん。今日の夕飯は…。」
急いでいるのか、樹くんは会話の途中でひらひらと手を振ってケーブルを持って去って行ってしまった。
何だか怒っていた気がする。
ていうか、何で怒るの?
モヤモヤとした気持ちが渦巻き、先ほどの樹くんの態度が気になってしまって仕事が手に付かなくなった。
別に飲み会を優先したわけじゃない。
祥子さんが強引に決定しただけなのに。
まるで私が悪いみたい。
私だって行きたくて行くわけじゃないのに。
どうしてこんなことになるの?
何だか泣きたい気持ちになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます