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*
「姫ちゃん、どうしたの?」
祥子さんが私を見るなり眉間にシワを寄せた。
私はキョトンとする。
「なんですか?」
「指輪よ、指輪。」
指差す先は私の右手。
さっそく祥子さんが目ざとく見つけたのだ。
最初はおまじないとして、その後は一種の験担ぎとしてはめていた指輪。
本当は外すか迷ったのに、焼肉の片付けをしているうちになくしてしまったことに気がついた。あのとき一旦外したところまでは覚えているのに、そのあとどこに置いたのか記憶がない。結果的に、指には何もつけずに出社したわけなのだが…。
「彼氏と何かあった?」
声を潜める祥子さん。
もしかしてこれはチャンスじゃないだろうか?
「あの、実は別れ…。」
「ええっ!大丈夫なの?」
“別れました”と最後まで言い終わらないうちに祥子さんはずずいと詰め寄り、私はその勢いに圧されて一歩下がる。
「はい?」
「同棲までしたのに別れるなんて、落ち込んでるよね?」
ものすごく神妙な面持ちで言われ、はっと気づく。
そうか、ここは落ち込まないといけないのか。
私はすぐさま判断し、少しうつむき加減で声のトーンを落とした。
「はい。そうなんです。」
言うや否や、ガシッと手を握られ、私はまたもや一歩下がった。
「金曜飲みに行きましょう!話、聞くわ。」
「えっ?いや、そこまでは。」
「こういうのはね、吐き出してスッキリした方がいいのよ。真希ちゃんにも声かけるから。」
そう言うと、祥子さんは大きく頷いて真希ちゃんの席へ駆けていった。
「し、祥子さん~!」
慌てて追いかけるも祥子さんの勢いは止まらず、私はただなすがままだった。
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