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渚ちゃんの左手の薬指にはキラリと光る指輪がはまっている。密かに気になっていたのだが、やっぱりそういうものって彼氏にもらったんだよね?
「渚ちゃんの指輪って彼氏にもらったの?」
「もらったというか、一緒に買ったペアリングだよ。」
「ペアリング!素敵な響き!」
私はうっとりした。
ペアリングなんて夢のまた夢。
結婚指輪ではなく、まだ恋人同士のうちにお互い指輪をつけるなんて憧れてしまう。
いつか私もペアリングをしたい、そんな欲望がムクムクとわき上がるなか、そっと自分の右手を見た。
右手の薬指にはまる細身の指輪。
これは正真正銘、ただのおしゃれリングだ。
入社三年目のとき大きなプレゼンをしなくてはいけなくなり、“右手の薬指に指輪をすると緊張が和らいで上手くいく”というおまじないを真に受けて付けた指輪だ。
そのおかげでプレゼンは上手くいったものの、“朱宮姫乃には彼氏がいる”と誤解されるきっかけにもなった。
もしかしてこの指輪を外せば、彼氏と別れましたと言わなくても、“朱宮姫乃は彼氏と別れた”と察してもらえるのではないだろうか?
これって名案なのでは?!
私はおもむろに指輪を外してテーブルの上に置いた。
何もなくなった手はなんだか軽くなった気がして、すこしそわそわした。
そして左手を開いて見る。
左手の薬指に指輪をはめることができたらどんなに幸せだろう。
「ねえ、椎茸焼いていい?」
「あ、はいはい、今焼くね。」
変な想像をしてしまったことを打ち消すように、私は無心に椎茸を焼いた。
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