25

「博物館よく来るの?」


「たまにね。好きなんだ、こういう雰囲気。昔の息吹が感じられて、その時代の一コマを現代から覗き見ている感じ。すごく好き。」


小さな出土品、欠片ひとつとっても、何百年何千年前に生きていた人が使っていたものなんだと思うと不思議な気分になる。どんな人が使っていたんだろう、どんな風に使ったんだろう、そもそもどうやって作ったのだろう、色々と想像が膨らんでワクワクするのだ。


「ふーん。覗き見って、姫乃さんエロいね。」


「ちょっとそういう意味じゃないよ。」


私が妄想に耽っていると、樹くんはニヤニヤとからかってきた。エロいって、失礼な。


「わかってる、わかってる。」


そう言う樹くんの顔はまだニヤニヤしていて、なんだか意地悪だ。


「もう、またからかって。樹くんなんて知らないんだから。」


私は子供みたいに頬を膨らませてぷいっとそっぽを向き、樹くんを置いてさくさく歩く。


「ごめんって。ごめんなさい。姫乃さん機嫌直して。」


樹くんは焦った感じで私を追いかけて来るや否や、腕を軽く引っ張ってくる。

私は樹くんから顔を背けたままだ。


「姫乃さん?」


心配そうな声で伺いを立てるものだから、何だか可愛らしく感じてしまって、逆に私は意地悪くニヤニヤと笑った。


「怒ってないよーっだ。」


ガバッと顔を上げて笑って見せると、樹くんは驚いた顔をして固まった。

私をからかった罰なんだからっ。


「樹くん、びっくりした?」


「…うん。」


思った以上に効果ありで、私は嬉しくなる。


「えへへ、大成功~。」


今度は樹くんが頬を膨らませてそっぽを向いた。


「…その笑顔は反則でしょ。」


「え?なになに~?」


ボソボソと呟く声が聞き取れなくて聞き返すも、


「なんでもないですっ!さ、行きますよ。」


怒ってるのかよくわからない態度のまま、樹くんは私の背を強引に押して常設展へ入った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る