09

そんな偶然に驚きつつも土日はまったく大野くんに出会わず、なんら変わらない日々に落ち着きを取り戻した月曜。

出勤時にゴミ出しをして駅に向かおうとしたところで、マンションから出てきた大野くんにばったり出会ってしまった。


「おはようございます。」


「お、おはよう。」


駅までの道程は嫌でも一緒だ。

なんとなく流れで一緒に歩き、そのまま一緒に電車に乗り込んだ。


満員電車なので毎朝座れない。大野くんに促される形で奥の方まで進み、座席の前のつり革に掴まった。

隣に立つ大野くんは思ったより背が高い。スーツにリュックといった、今時の若者スタイルだ。スラリとしているのでよく似合っている。


一つ目の駅で、私の目の前の席が空いた。


「大野くん、すわっ…。」


”座って”と言おうとしたのに、突然両肩を掴まれ、くるりと向きを変えられる。そしてそのまま空いた座席に押し込まれた。


「あ、ありがとう。」


「ん。」


座席には私が座り、大野くんは駅で乗ってきた乗客にぎゅうぎゅうと押されている。だけど何事もないかのように、悠々と立っていた。


最寄り駅に着くと人の流れに身を任せる感じで改札までたどり着いた。もうその時には大野くんは数歩先を行っている。

振り返ってくれたので私も駆け寄ろうとしたが、背後から名前を呼ばれて私は振り向いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る