08

「大野くんここなんだ?」


「姫乃さんって最寄り駅ここでした?」


「うん、最近引っ越したんだ。」


「ふーん。」


電車を降りて改札口まで一緒に歩く。

そこで別れるものだと思っていたのに、大野くんは私の帰り道と同じ道を歩いていく。


「大野くん家こっちなの?方面一緒だね。全然気付かなかったなぁ。」


といっても、私はまだ二週間前に引っ越してきたばかりだ。近所の事はまだよくわかっていないし、会社への行き帰りの駅からアパートまでの徒歩三分くらいしか行動範囲がない。まさか大野くんも同じ駅を使っていて、帰る方向も同じだとは思わなかった。


「じゃあ俺ここなんで。」


「ええっ!」


私は驚きのあまり叫んで立ち止まった。


「どうしたんですか?もしかして家まで送ってほしかったですか?」


「ちっ、違うよ。」


私の動揺っぷりに、大野くんは不思議そうな顔をする。


「大野くんの家、ここ?」


「はい。」


「…私もなんだけど。」


「はい?」


私の指差す先。

最寄り駅から徒歩三分。

六階建ての築十年のマンション。


まさかの同じマンションだった。

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