第3話「カギ事件」
繁華街の中にあるスナックやバーがあるビルの真下にあるコンビニ「B店舗」で起きた事件です。
前話でも書いた通り、店内にトイレが存在しません。日中は地下鉄の駅構内や隣の商業ビルにあるトイレを使えば問題ないですが、夜勤はそうもいきません。
そこで近くにある姉妹店のトイレを借りに行きます。
まず店内に客がいないか確認し、自動ドアの電源を落とし、扉に「ただいま都合の為……」と書かれた紙を扉にテープで貼り付け、ドアを横に動かしてから、下にある鍵の差し込み口に鍵を入れて施錠します。
ダッシュで姉妹店に行くこと5分。用を足し、戻ってくるわけです。
……ですが、この日、大変なことがおきました。
なんと、扉を開けることができないのです。
扉を閉めることができたのに開けることができない……??
焦りを感じつつ、鍵穴に鍵を突っ込みますが、とても固い。
普段なら差し込んでから180度回せば開きます。
が、あまりにも固くて開けることができない。
その時、スマホを持っていたので急いで姉妹店に電話をかけました。
T君が出てくれました。
「ねえ、扉の鍵が開かないんだけど」
「ええ?」
あーだこーだと会話をしつつ、なんとかして扉を開けようとしていました。時刻は朝の6時過ぎ……お天道様がそろそろ上ってきた時間帯です。
「あの、泥棒ですか?」
と、そこへ仕事終わりのボーイさんが話しかけてきました。
そろそろ帰るのか4~5人ほどいてました。
よく見るとどの方も常連の方です。
「いや、違います。マジで開かなくて……」
ここでボーイさん達爆笑。
「え、っていうかどこ行ってたん?」
「いや、あの、トイレ行ったんすよ。○○通りにある姉妹店まで行って用を足して戻ってきたんです。で、帰ってきたんですよ。でも、扉が開けられなくて」
「店内にトイレ無いってほんまやったん? 俺嘘やと思ってたわ。
っていうか店員さん、パンツ見えてるけど」
と、またもや爆笑。
慌てて隠す筆者。
ジーンズなのでどうしてもしゃがむと見えてしまう。
ボーイさん達は善意で鍵を開けるのを手伝ってくれましたが、ダメでした。
仕方なく一度姉妹店に行き現状をT君に説明しました。
どうもこの鍵は閉めるのには向くが開けることができない鍵なのではないかということを以前説明していたとのこと。
そんな話、まったくもって初耳なんですが。
T君も一度行って試してみるということになり、筆者は姉妹店で留守番。
姉妹店は最近はシフト入っていませんので店頭に立つのは久しぶりでしたね。しかし、感慨にふける暇もなく、開かなかったからどうしようと筆者は不安でした。
朝7時には納品があるんですよね……。
姉妹店でT君に期待を込めて待つこと十数分。
T君が戻ってきました。
吉報を期待しましたが、残念ながら彼でも鍵を開けることはできませんでした。悩んだ末、普段、鍵の管理をしているおばちゃん店長に電話。
しかし、生憎、この日は日曜日でおばちゃん店長はお休み。
残念ながら寝ているらしく、繋がりません。
オーナー・統括店長に電話した方がいいだろうか?
しかし、早朝の電話は機嫌を損ねるのではとT君は渋ります。
そこで朝勤のK君に電話しましたが、繋がらず……。
刻々と時間が迫る中、おばちゃん店長・朝勤のK君と電話をかけまくるT君。筆者はT君の代わりにレジに立ち、接客をしていました。
刻々と更に時間は過ぎていきます。
やがて朝勤のK君と連絡がつき、姉妹店に来てくれました。
状況を説明すると「じゃあ僕が開けにいってみます」と申し出てくれました。鍵を彼に預け、頼もし気な背中を見送りました。
そして、数分後。
K君から開けることができたと電話がありました。
さすがやで、K君……!!
T君にもお礼を言い、姉妹店を後にしました。
B店に戻ると扉が開いて感動でした。
どうやって開けたのか聴くとK君曰く「思いっきり力を入れて鍵を回したら開けることができた」だそうです。
俺とT君でも無理だったのにどんな力を込めたのだろうか???
彼は結構ケンカに強く、よく武勇伝を聞かせてくれます。腕も太く丸太のようだといつも思っています。そんな力がないと開けられない扉って……。
T君に感謝の気持ちを込めて煙草を2箱購入しました。
「いや、別にいいですよ、そんな。扉開けただけなのに」
「ええって、ええって。扉開けてくれたんやから。是非もらって」
と、筆者は煙草を渡してあげました。
今日のヒーローは間違いなく貴方です、K君。
後日、その鍵は金庫に封印されました。
代わりに新しい鍵が用意され一安心です。
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