第4話「彼は今」


うちの店に来る面白い頭の客がいる。

真ん中は禿げていて、左右に髪の毛がドリルのような形をしている男性だ。その客はいつも酒に酔っぱらって千鳥足だ。

恐らくどこかの店のボーイさんだと思うが、いつも千鳥足だ。

足がフラフラでおぼつかない。彼は限界を迎えると、店の外にあるベンチで寝てしまう。そしてよく「バッグ落としてませんでしたか?」「黒のポーチ落としていませんか」と尋ねてくるが、残念ながら無い。

恐らく、寝ている間にスられたのではないかと思う。




ある日の事。

筆者は仕事をほぼ全て片付けていた。

時刻は午前7時を過ぎ、交代が来るまであと1時間。

客もまばらでやることもない筆者はのんびりしていた。

そんな中、その彼がやってくる。

そのセリフは「財布が落ちていませんでしたか?」だ。

もちろん、店内では見かけていない。

その旨を伝えると大変困った顔をし、どうすべきか思案しながら店内を歩き回る。じっと考えることができないらしい。

そもそも何でそんな大事な物を無くすのだろうか。

しばらくして。




「あの、300円だけ貸してもらうことってできないですか?」




「……ちゃんと返してくれます?」




「もちろんです」




相手はそう言うが、筆者は訝しむ。

酔っ払いの言うことなどあてにならない。

少し迷ったが、もし自分が同じ立場だったら……。

ここで断るのはかわいそうかなと感じた。

大概お人よしだな、俺も。

そう思いつつ、自分の財布から300円を出した。




「俺は来週の○○と△△の曜日にいますんで」




「お名前聞いてもよろしいですか?」




「小夜子です」




彼はぱあと顔を明るくさせ、礼を言ってから快活な足取りで店を出た。

筆者は戻ってくるとは正直思えず、あの金はあげたものだという気持ちでいた。なので、万が一返ってこなくてもいいだろうと思っていた。




そして週が過ぎた。

○○の曜日には来なかったが、△△の曜日の朝方に彼は来店する。

そこで「助かりました」とお礼を言い、商品を買い、その時のおつりがちょうど300円程度だったのでそれを返済に充ててくれた。もちろん、喜んで受け取った。





そんなほっこりとした朝だった。















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