24限目 紅薔薇の令嬢は勝負を受ける

「そんなの困ります!」


 美希との勝負の一件を聞き、千尋は拒否の意を示した。


「何故だ? 何が気に食わん?」

「えぇ気に食わないですよ! 勝手に勝負なんか持ちかけるし、西園寺さいおんじさんとの勝負に私たちを巻き込むし!!」

「別に巻き込んでなどいないだろ。これはあくまで茨木と煌星きらほしさんとの勝負であり、それが僕らの教育者としての勝負に直結するだけじゃないか」

「それを巻き込んでるって言ってんですよ! バカなんですか!?」

「ぐっ……」


 教え子に『バカ』と罵られる家庭教師。

 そのことに眉をひそめるも、なんとか受け流して侑李は説得を続けた。


「しかし、どうして拒む? 僕は単に、ライバルが欲しいのであってだな──」

「いえ、ライバルなんて結構です。私には『平均点』というライバルがいるんですから」

「平均点ねぇ……」


 確かに千尋の言う通りかもしれない。

 赤点というのは、平均点の半分以下。平均点が50ならば、25点以下が赤点となる。

 しかし千尋のような赤点ギリギリの生徒は、平均点さえ超えれば赤点の心配などいらない。

 その上、平均点は公表されるため、目に見える好敵手としては十分だろう。


「だが、やはりキミは煌星さんと勝負をすべきだ」


 七瀬いわく、美希も千尋と同じく赤点ギリギリとのこと。

 言い方は悪くなるが、平均点を超えるよりも低いハードルだ。

 それにもし美希も平均点を超えて、その成績に千尋がまされば、どちらも平均点を超えることになる。

 そうなれば侑李と七瀬、二人ともが優秀な教育者として賞賛されるだろう。


 ──もちろん、侑李はそれが狙いである。


 その狙いを、侑李は千尋に説明した。


「だからキミには、煌星さんと切磋琢磨して成績を上げて欲しいのだよ」

「……なるほど、それなら悪くないですね」

「だろ? そもそもライバルとはそういう存在なのだよ。ポ〇モンだってライバルが強くなるから、負けじと主人公も強くなってだな。でもライバルは更に主人公の上を行って、やがてチャンピオンになるんだよ。そんなライバルと戦うのがまたエモくてだな。あと、BGMも凄いのだよ。あのアップテンポな音楽がだな──」

「何の話ですかそれ……」


 ポ〇モンの赤緑も分からぬのか、と言いたげな侑李。

 ちなみに侑李にとってのポ〇モン赤緑は、唯一プレイしたことのあるゲームなので、かなり思い入れがある。


「とにかく、先輩の言いたいことは大いに納得しました」


 コクリと頷き、千尋は真剣な表情で告げる。


「その勝負、引き受けます」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る