22限目 絶対王者は永代女王(エターナルクイーン)と言い争う
「……よしっ!!」
掲示板に貼られた『中間テスト順位表』を見て、侑李は小さくガッツポーズ。
順位表には、侑李が学年一位であることが記されていた。
絶対王者こと、
今回の中間テストを含め、高校に入学してから一度も王冠を手放したことは無い。
「……しかし、二位との点差はわずか五点か」
しかしそんな彼から王冠を奪おうとする存在がいた。
……しかし、全体の順位はずっと二位。
ティアラは手にしても、王冠が手に入らないことに悩まされているとの事だ。
「あら、ごきげんよう♪」
校内の廊下にて、侑李の前に現れた同級生の少女はクスリと笑った。
肩甲骨まで伸びた明るい亜麻色の髪。読者モデルよりも優れているであろうグラマラスなルックス。目にサファイアでも埋まってるのではないかと思えるほど透き通った瞳。
この三拍子が揃った美少女。そして侑李を見てすぐ、嘲笑うような笑みを浮かべる姿。
……間違いない。
三年の文系クラスに在籍する、
『
「お元気ですか? 絶対王者(笑)の、冠城侑李くん」
スカートの裾をひらりと上げて挨拶すると、今度はにぱっと明るく笑って、こう放つ。
「いえ……、ウンチの冠城くんと呼ぶべきでしょうか?」
「誰がウンチだ。汚らわしい」
お嬢様のくせに、なんて下品な言葉を使うんだ……。
顔を
「ふふっ。わたしは『運動音痴』の冠城くん、と申したのですが?」
「だったらウンチって略するなよ。紛らわしい」
「わたしはダイレクトに言うと、あなたの無駄に気高いプライドに傷がつくと思いましたので。お気遣いをしたつもりなんですけど?」
「ウンチの方が嫌だわ」
目を合わせてすぐ言い争いを繰り広げる二人。
ちなみにこれは同級生の間では名物となっているらしく。
『あらあら、またやってるよあの二人』
『絶対王者と
『ありゃもう、
面白半分で駆けつけたギャラリーが二人を囲み、ラップバトルのようなフィールドが完成した。
そんな彼らに構わず、侑李も七瀬に対抗してクールに言い返す。
「しかし七瀬も相当なウンチだろ?ブーメランが頭に刺さってるぞ?」
「女の子にそんなお下品な言葉を使うとは。さすが、乙女心の理解の乏しさは一級品ですのね?」
「僕も同じく気遣いをしたのだが? ここ数日で鍛えられた実力をお披露目したまでだが?」
ここ数日──つまり、千尋と過ごした時間のことである。
しかしそんなことを七瀬は知らないわけで、
「あなたが? 乙女心を理解できた?? わたし以外の異性のお友達を作れないあなたが??」
「待て。僕がキミの友達になったのは初耳だが?」
「……おほん。失礼。お知り合いでしたわね」
一つ咳払いをした七瀬。
しかし彼女は何かに勘づいたのか、侑李に徐々に迫る。
「ですが、あなたのような女性との縁がないお方が、どのようにして乙女心を理解できたと?」
「あっ、いや。それは……」
内心ムキになってつい吐き出してしまった言葉に、侑李はやってしまった、と冷や汗をかく。
千尋との関係を告げるのは、固く禁じられている。
それなのに、侑李は千尋の存在を
──くっ、仕方ない。ここは七瀬の言う冗談に適当にイエスと答えるとしよう。
次も必ず、七瀬は罵倒してくる。
だからその言葉に、適当に対処して言い逃れよう。最悪ここはコケにされた方がマシだ。
そう思った侑李は、七瀬の罵倒目的の冗談を事実にしようと考えた。
そして侑李の読み通り、七瀬がクスリと笑う。
「ふふっ。まさかとは思いますが、妹さんの同級生でも集めて、『お兄ちゃんと呼んで欲しいなぁ』などと言ってキャキャウフフとしてた、なんて言いませんよね? まぁ、あなたにそんなことができるコミュ力が──」
「あぁ、そうだが?」
「……は?」
──あれ? なんだ今の罵倒は?
七瀬の事だから、「動物園でメスのゴリラとお話してた程度でしょ?」とでも言われると思った侑李だったが、どうやら適当にイエスと答える、という策は凶と出たみたいだ。
「……へぇー」
「いや、待て七瀬。違うんだ!」
輝きを失った瞳で、七瀬は更に迫る。
「冗談のつもりで言ってみたのですが……、あなた今、イエスと答えましたよね?」
「ち、違う! 今のは──」
『えっ、何それ。キモッ』
『そうかぁ。絶対王者のシスコンは、ロリコンに進化したかぁ』
『きっと勉強のし過ぎで疲れてるんだろう。絡まないのが一番だな』
「だから、今のは違うんだ!!」
シスコンの絶対王者が適当にイエスと答えた結果、ロリコン認定された件。
事態の収拾が付かず焦る侑李。
対する七瀬は目のトーンを更に暗くして迫る。
「冠城くん。一体誰と、そんないかがわしいプレイをしたのですか?教えてください」
「だから、違うんだ! 今のは──」
「シスコンやロリコンはみんなそうやって言い逃れするんですよ」
「お前、シスコンやロリコンを何だと思ってるんだ!?」
表情が暗くなっていく七瀬を見て、シスコンやロリコンに友達を殺されたのか、とまで考えた侑李。
とにかくこの事態を丸く収めなければ……。
「ほら、教えてください。わたし、その子を引き止めて、あなたのような不埒な男から遠ざけるんで……」
「だから、そんなやつはいないって! それに……」
相手は高飛車なお嬢様。
だからそれを利用させてもらおう。
侑李は皆の誤解を解く一手をバシン!と差した。
「それに、僕は同級生にしか興味を示さない、一般的な男子高校生だ!!」
たいそうな言い方だが、これは重度のロリコンでもシスコンでも無いという表れ、のつもりだ。
「だからもちろん、キミのような誰にも好まれる才色兼備な、可愛いお嬢様がタイプだ」
誰もが好むタイプを好むのだから、一般的だろう?
そう考えた侑李は、自信ありげに答える。
しかし……。
『えっ? 今のって、告白!?』
『うぉぉぉ!! 絶対王者が永代女王に告ったぞ!?』
侑李が七瀬に「好きだ」と伝えたと思ったギャラリーが一気に湧き立つ。
けれどそんな中、『でも永代女王が好みなのは、普通だろ』『ありゃ変人なりの、一生懸命な一般人アピールだな』などと言った憶測が飛び交う。
一方、侑李は一切の動揺を見せずに、余裕の表情を浮かべる。ここまでは想定内だ、と言わんばかりに。
あとは高飛車なお嬢様を『可愛い』と褒めたのだから、良い気分になってこの場からスキップで立ち去ってくれるだろう。
そう信じて侑李は七瀬を見つめ続けると、七瀬はクスリと笑って口を開く。
「……ふふっ。やっとあなたも、わたしの魅力に気づいたのね?」
「当然だ。なんせ僕は、一般的な男子高校生なのだから」
「ふふっ、嬉しいわ。あなたがようやく一般的な男子高校生の思考を理解できたみたいで」
「まぁ、乙女心の理解はまだまだなんだけどな」
「そうですね。うふふふふふ……」
「あはははははははは……」
お互いが高笑いすると、ギャラリーたちは侑李が下手な一般人アピールをしたと理解。
つまらないやつだな、と思いながら各々の教室へ立ち去った。
「では、ごきげんよう♪」
「あぁ、またな」
スカートの裾をひらりと上げ、七瀬は踵を返して立ち去った。
けれど足取りは小さく、スキップをする様子もなく教室に入っていき……。
『西園寺さん!?』
『大変だ! 顔から湯気出てるぞ!!』
『誰か! 西園寺さんを保健室へ!!!』
「七瀬!?」
教室に入って早々倒れた七瀬に気づき、侑李はすぐさま彼女を保健室に運んであげた。
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