5限目 絶対王者とロリコン王子の話が噛み合わない

「なぁ伊織いおり、歳下の女の子を褒める方法を教えてくれ」

「……んぇ?」


 教室に着くと、侑李は同じクラスの男子、霧谷伊織きりがやいおりに唐突な質問を投げかけた。


「なんだよ? 藪から棒に」


 ワックスで遊ばせた金髪を弄りながら、伊織は応答する。


「歳下の女の子ばかりと付き合うお前なら分かるだろ?」

「いきなり人をロリコンみたく扱うとは心外だな、このシスコン野郎」

「いや、事実だろうがロリコン野郎。あと、僕はシスコンじゃない」


 こんな言い争いをするが、傍から見ればお互い様である。


 伊織は基本、ルックスが良くコミュ力もあってモテるのだが、彼は絶対に好みの歳下ロリ体型の女の子としか仲良くしないし付き合いもしない。まさにロリコン野郎。


 一方の侑李は、茨木や校長の前では見せなかったが、口の開けば妹のことばかり出てくる。まさにシスコン野郎である。


「どうせ今日も愛する妹のことだろ? 俺に指摘されたくないから『歳下の女の子』=『妹』を伏せてんだろ?」


 そう。実は伊織の言う通り、侑李は伊織にシスコンだとからかわれるのが嫌で、つい最近まで『妹の話をしている』ことを上手く伏せて話していたのだ。

だから今回もそんな感じだろう。

伊織はお見通しと言わんばかりのニヤケ顔を見せた。


「……そんなんじゃない。ちょっとそうせざるを得ない状況に陥ってるだけだ」

「ふーん」


 ──はいはい、嘘乙。俺のことを誤魔化そうなんて最初から無理だっての。


 伊織は胸を張り、ふふんと鼻を鳴らした。


「わかったわかった。そんなに言うなら教えてやるよ」


 侑李の妹への愛の大きさを加味しながら伊織が得意げに答えていく。


「まず出来の良いいも……、歳下の女の子には、頭をポンポンしてあげるのが主流だな」

「なるほど、頭をポンポンか。てか、僕の頭を触るな気持ち悪い」

「あと、その上位互換である『頭なでなで』も使えるようになることだな。使い分けはその時々のムードで判断することだ」

「ちょっと待て。頭をポンポンするのと頭を撫でるのは、一緒じゃないのか?」


 頭を撫でようと手を近づける伊織の手首を掴んで、侑李は問う。

 すると伊織は「チッチッチッチぃ〜」と言って、


「わかってないなぁ、侑李は。これだから恋愛未経験者は」

「うるさいぞ、ロリコン検定一級」

「はぁ!? だから俺はロリコンじゃねぇから!!」

「はいはい。ロリコンはみんなそう言うんだよ」

「俺は『やってない』と言い張る犯人か何かか!?」

「うっ……、心が……」

「ん? どした?」

「いや大丈夫。何でも無い」


 一体コイツに何があったんだ。

 そう思った伊織だが、侑李に構わず「そっか」と言って話を続ける。


「とにかく、まずは頭ポンポンと頭なでなでだ」

「おう、わかった。ありがとう。早速、今日やってみるよ」

「おぉ、そうかそうか……って今日かよ! いきなりだな!!」

「あぁ、打てる手は早めに打たないとな」

「……そうか」


 ──コイツ、妹に何をするつもりなんだ……。


 あまりにもひどいシスコンぶりだなと思った伊織は、ズズっと椅子を動かして侑李から距離を取った。

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