2.実戦訓練





「――《実戦訓練》



 それは、一年生が《剣術大会》によって気合が入ってきた時に行われる、恒例イベントだ。


 5人組のチームを作り、各チームに監督の教師が1人ずつ配属される。



 実戦という字から分かるように、この訓練は実際に魔物を倒すという、危険を伴ったものとなっている。

 そのため、生徒も教師も、細心の注意が必要だから、宜しくね。



 なお、チームメイトは生徒で自由に組んでよくて、もし組めなくても、組めなかったもの同士で組めるように調整されるよ。


 ただし、教師は学院側が勝手に選びます。

 だから、個性豊か過ぎる教師が来ても、あまり驚かないで欲しいな。



 ちなみに一週間後にする予定で、それまでの間には、各クラスの担任からも数々の指導を受けることになってるから、しっかり聞いておいてよ!



 ってな訳で、僕からの話はこれで終わりです!ラジオ体操に付き合ってくれてありがとう‼︎」


 最後は満面の笑みで言う学院長。



「はぁぁぁ……」

(いやぁ、別にみんなやりたくてやってる訳ではないんだけどなぁ……)


 無自覚でやってるのか、知っててやってるのか――どちらにしても害悪なことに変わりはないが――せめて、今度は楽しいものをやって欲しい。


 実は少し楽しんでいることに気づくことなく、コウはため息をつくのだった。




 *




 そして、学院長からの話を聞いた俺たちは自分のクラスルームに戻った。


 その道中で、俺はアルに話しかける。


「アルはもう誰と組もうか決めた?」


「ああ、1人目は決めたよ!」


 アルは自然と笑顔になりながら言う。


(誰だろう……)

 アルが選ぶ人が誰なのか、とても気になっていた俺だが――



「俺はコウとやりたいと思ってる!」



 ――俺?



 アルが声を張りながら言ったため、俺は一瞬困惑する。

 だが、アルの真っ直ぐな視線を見ていたら、自然と口にしていた。


「いいなっ!俺もアルとやりたいよ!!」



 勢いよく言う俺に、アルは呆気にとられたが――

「じゃあ、決まりだな!」


 ――そう言いながら、笑った。



「ああ……っ!

 ――それじゃあ、残りの3人はどうする?」


 笑い返した俺は、クラスルームに着くまでアルと話し合った――





 *





「お前ら、今から実戦訓練の詳しい話するから、しっかり聞けよー」


「しっかり聞けよ」と言うミラ先生が、俺たちよりも少し眠たそうに話し始めた。



「さっき学院長が言った通り、今回は生徒のお前たちの各グループに課題を与え、それを監督の教師と共に行ってもらう。

 まぁ、お前たちがこの学院を卒業してから何をするのかは知らんが、この経験が役に立たないということは無いだろう」



 確かに、卒業後に騎士団に入ることも、もしかしたら冒険者になることもあるかもしれない。

 だけど、この実戦訓練はきっと役立ってくれると俺も思う。




「しかし、過去にも色々あってなぁ……生徒が大怪我をしたり、トラウマがすこーーしできたことがあったらしいが――

 ――今年もやる‼︎」


 急に凄いガッツポーズでミラ先生は言ったが――



(今、明らかにヤバイことを、しれっと言ったよなっ!! ほら、みんなも『ウゲッ』って言いたそうな顔してるよ!)


 周りを見渡した俺は、みんなも同じ反応のことに少し安堵する。




 しかし、こんな俺たちの反応に見向きも触れずに、ミラ先生は話を続ける。


「それで、5人組は他クラスの奴とも自由と組んでいいからな。

 共に戦う仲間だ、よく考えて選べよ‼︎」



(ああ本当によく選ぶ必要がありそうだよ‼︎ 残りの3人を大事に選ばせてもらいますよ!

 こんなところで、トラウマを植え付けられる訳にはいかないからなあっ!!)

 俺は心の中で嘆く。

 本当に、トラウマを植え付けられるのは勘弁だ。やめてほしい。






 この時、クラス全員が理解した。


『生半端な覚悟だと、この学院では生きていけない――』と。





 *





「いやぁー、楽しかったなーー」


 レグルスは満足そうに廊下を歩く。


 そして、そんなレグルスの元に光が差しかかった。

 それは赤い光――つまり夕日だった。


「夕日……赤い……光……」

 レグルスはふと立ち止まり、夕日を見つめながら呟く。




 パチンッ!


 すると、レグルスは何かを閃いたように、指パッチンをする。



「そうだ。いいこと思いついた……‼︎」


 まるで、イタズラを思いついた子供みたいな顔をしたレグルスは、また歩き始める。






 陽は沈み、闇が立ち込めた――



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