2.入学試験



 ――アストレア剣術学院。


 そこは、王都の中でも有名な剣術学院の一つで、最近は、王都一の剣術学院と称されている。


 ここでは文字通り、生徒の剣術の育成を目的としている。

 そして、当然の事だが、アストレア剣術学院にも様々な工夫を施されている。

 中でも主な工夫は二つある。



 まず一つは、アストレア剣術学院は、寮生活というのもあって、通学で掛かる時間が削減されているという点だ。


 二つ目は、教育プログラムの充実さで、教育の方法や設備などは、優秀な教員達が試行錯誤を繰り返しているという点だ。


 大抵の剣術学院に当てはまることだが、学院に生徒が通う期間は四年だ。

 この剣術学院では、四年後には立派な剣士となれるように、その四年間を有効的に使っている。



 数百年以上に前に建てられてから、この剣術学院は着々と力をつけてきていて、数々の優秀な剣士を輩出している。

 特に最近は優秀な功績を収めることが多くなり、王都一と称される程となっている。


 まさに、剣を進む者としての憧れの的だ。


 もっとも、この剣術学院に入れるのは、毎年だけで、高い実績を持つが故に、入学する者には並ならぬ努力と才能が必要である。


 それでも、毎年多くの人が入学試験を受けに来るという、不朽の名門校だ。



 *



「す、凄い!人がこんなにも集まっている」


 俺が試験会場に向かうとそこには大勢の人がいた。

 (ざっと400人というところか…)


 だが、この学院に入学することが出来るのは、せいぜいこの四分の一くらいだ。

 およそ倍率4倍といったところだ。

 それもみんなのレベルが高いから、より一層入学することは困難とされている。


 俺が再び気を引き締めてたときに、声が聞こえてきた。


「皆さん注もーーく!今から詳しい試験の内容についてお話しします。一度しか言いませんので聞き逃さないでくださいよ!」


 どうやらこれから詳しい試験の説明が行われるようだ。

 今喋っているのはおそらく正面の段に立っているあの男だろう。

 どのような立場なのだろうか。


「まず、今年の試験の内容は、三つあります。一つ目は、審査員への技の披露。ちなみにこれは貴方達が得意とする技や、審査員にアピールしたい技など、好きな技を使ってくれて構いません」


 成る程、この一つ目の試験では、その人の技の練度や珍しさなど色々な部分を見るのか。


「二つ目は、試験官との実技試験です。ちなみにここでの勝ち負けで合否が決まるわけではありませんので、勝てなかったからと落ち込むことはありません」


 つまり、二つ目の試験では、実践での戦い方や持久力、判断力が試されるのか。


「そして最後の三つ目は、ペーパーテストです。この学院で過ごす上で必要となってくる学力を持っているかを審査します。他が良くてもここがダメ過ぎると不合格になるので頑張ってくださいね〜」


 うん。これはあらかじめ知っていたので、勉強はしてきてる。大丈夫だ。



 その後も説明は続き、それぞれの試験が行われる場所の説明など、様々なことを説明された。

 今日中に400人分の試験を行わなければいかないので、色々と工夫をしているそうだ。


 ペーパーテストは最後に一斉に行うようだが、技の披露と実技試験の順番が違う人もいるそうだ。


 つまり、技の披露→実技試験→ペーパーテスト

 という人と、

 実技試験→技の披露→ペーパーテスト

 という人で、二種類あるようだ。

 ちなみに俺は前者のパターンだったから、先に技の披露を行うみたいだ。




 *




「次!受験番号124番、コウ!!」


「はい!」


 どうやら俺の番がきたようだ。


「今から俺がするのは、"八岐大蛇やまたのおろち"という技です!」


 フゥーーーーー

 俺は、目を閉じて深く息を吸い込む。


 そして、俺の剣にまとわせる――




 *



 ――『剣気』


 人々の間で「剣術」が浸透するこの世界には、『剣気』というものが存在する。


 これを纏うということは、なかなか一朝一夕で身につくことではない。

 次第に剣術を修練していくことで、やっと身につけることが出来るものだ。


 そして、この『剣気』を体や剣に纏わせる事によって、攻撃力や攻撃の幅を飛躍的に上げたり、広げたりすることが出来る。


 使い方によって、『剣気』が発する効果は異なり、『剣気』をいかに扱うかで、火や水、風など、様々なものの再現が可能となる。


 例えば、有名なものだと、剣に炎を纏わせて技を繰り出すというものがある。

 他にも、水のような剣戟を繰り出すものがあったり、剣の重みを増すものがあったりなど、剣気がもたらす効果は千差万別だ。


 想像力次第で、多種多様かつ強力な技を生み出せるのだ。


 しかし、『剣気』は一人前の剣士にしか扱うことが出来ない。誰もが『剣気』を使えるような世界にはなり得ないのだ。


 だが、これだけは確かに言える。


 ――『剣気』は、極限の剣術へのとなる。

 そして、その極限の剣術へと辿り着いたその先には、まだ見ぬが待っている。



 *




 ――目をかっと見開き、俺は技を繰り出す。



「"八岐大蛇やまたのおろち"……!」



 八岐大蛇は八連撃技で、技を放つコウの姿は大蛇そのものだ。


 コウは八岐大蛇のような紫色の剣気を纏っていた。そして、コウが剣を振るのと同時に、その剣気はコウの剣に纏いつく。

 素早く噛み付くような鋭するどい剣戟を七回放ち、最後には大きく溜めて、八岐大蛇の全てを乗せた渾身の一撃を放つ。


  それは、見惚れてしまいそうな、素晴らしい技だった。


 そして、技を放つときの、先程とは別人の様なコウが纏う剣気に審査員もはっとさせられる。



「……あっ、よしもういいぞ。次!受験番号126番〜」


 一瞬ほうけてしまった審査員は、すぐに仕事を思い出し、慌てて続ける。


 コウも自分の技を放つことができてことに満足し、次の試験会場へと向かう。





 *





「次!受験番号124番、コウ!」


 名前を呼ばれた俺はステージへと向かう。

 ステージの上で、試験官と俺は向かい合い、お互いの剣を構える。


 この試験では、実剣を使うが、殺すのではなくて寸止めを用いるようだ。



「始め!!」


 合図と共にお互いに動き出す。


 だが、勝負は一瞬でついてしまった――



「…なっ、なに!?」


 いつのまにか試験官の剣は弾き飛ばされていて、近くの地面に刺さっている。

 そして、試験官の眉間みけんには、コウの剣が突きつけられていた。


 コウの素早い剣を、目で捉える事が殆ど出来なかった試験官は、呆然とする。



「………っ、し、試験はそこまで!」


 審査員も慌てて終了の合図を送る。


(あれ?これって俺が悪いの⁉︎)


 なんだか気まずくなってしまった雰囲気に、俺は驚く。





(でも、俺のこれまでの努力は無駄ではなかったようだ。での修練は……)


 修練の成果を感じ始めてきた俺は、達成感を少し感じつつあった――



 *



 2つ目の試験が終わった俺は、最後のペーパーテストまで時間はあるので近くに休める場所がないか探す。



(……あった!)


 座って休めそうな場所を見つけた俺は、そこに向かおうとするが、そこで後ろから声を掛けられる。



「ねえ、そこのあんた…!」


 明らかに自分に向けた声だと考えた俺は、後ろを振り返る。


 ――すると、そこには赤髪の少女がいた。


 髪はストレートヘアーで、瞳は髪の色と同じ赤色でルビーのようだ。

 顔も整っていて、まさしく美少女と言える容姿なのだが……どうしたのだろうか。



「えっとー、俺に言ってるのかな……?」


「そうよ。あなたよ」


 俺が少し遠慮がちに聞くと、赤髪の少女は少し強い口調で話し返してきた。



(なんだかさっきから少し強めに言ってくるな。なんなんだよ、一体……)


「それで、何か俺に用でも?」


「あなた、強いわね」


 唐突に褒められた(?)。

 余りにも突然のことで俺も驚く。


「……は?」


「今回の試験の結果では負けても、絶対に入学してからはあなたを追い越して見せるわ。覚悟しておきなさい」


 なんだか勝手に目の前の少女は話を進めてくる。


「……、何を言っているんだ?」


「じゃあ。もうあんたに話は無いから――」


 言うだけ言うと、赤髪の少女はどこかへ行ってしまった。



「な、何だったんだ?あいつ」


 癪にさわるとこもあるが、取り敢えず気にしないようにしておいた。


 世の中、『気にしたら負け』という言葉もある。




(よし!次で最後だ。頑張るぞ‼︎)

 俺は、心に喝を入れ直す。



 ものの数秒で、さっきの少女のことは、思考から消し去られていた――







 *




 無事に最後の試験も終わり、後は待つだけになった俺は、宿に泊まっていた。

 そして、宿に着いた俺はそこでご飯を食べ、自室に戻った。





「はぁ〜、やっと終わった〜〜‼︎」


 緊張からの解放感に、思わず声を上げながら、俺は宿のベットに倒れ込む。

 すると、一気に疲れがでてきた。


(今日も一日、疲れたな……)


 俺は、布団にくるまり、部屋の窓から見える月を眺める。


(……受かるといいな……)


 無事受かっていることを願いながら、俺は安らかに眠りについた――





 *




「おっ!これは!!」


 ついに学院からの封筒が届いた俺は、胸を弾ませる。



 封筒を手にしながら、俺はベットに座る。


「すっごい緊張するな…っ! ……でも、もう開けるしかないよな」


 俺の中で、早く結果を知りたい気持ちと知りたくない気持ちがぶつかり合う。


「いや、ここは威勢よく見よう! ――いち、にぃ、さん……っ‼︎」

 結果、知りたいという気持ちが勝った俺は、威勢よく開けることを決断する。



 そして、






 封筒を開いた俺の目には、確かに、合格という文字が書かれていた――

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