3.首席と次席

 


 ――封筒を開いた俺の目には、確かに、合格という文字が書かれていた。



「よし!……ん?何が書いてるんだ?」


 封筒の中にあった紙には大きく『合格』という文字があり、その下にもまだ色々と書かれていた。


『今回のアストレア剣術学院への入学試験において、合格おめでとうございます。

 そして、今回の試験において、あなたはとても優秀な成績を修め、首席と認められました。

 また、首席と次席の生徒は毎年、入学式で技の披露を行うこととなっているので、そのつもりで入学式に挑むように―』

 そのあとには、必要な道具などが色々と書かれていたが――


 どうやら俺は首席になったらしい…

 さっきから心臓の音がうるさい。

 もの凄い高揚感が俺を包み込む。

(俺が、新入生の首席……)



「あっ、この事を早く伝えないと」


 俺は、いち早く知って欲しい両親に向けて、手紙を書き始める。

 入学試験のこと、合格出来たこと、首席になれたこと、これからの学院での生活にとても胸を踊らしていること。


 書き終え、手紙を届ける仕事をしている役所に送り届けてきた俺は、もうすっかり暗くなった夜の中、布団の中で思う。

(俺のことを応援してくれた両親のためにも頑張って、いつか立派になった姿で親と再会したいな。)


 この剣術学院から地元までは距離が遠く、またこの学院は一年中忙しくため、会いに向かうのはとても難しい。向こうからこちらに来るのも、村の状況などを考えると、恐らく厳しくなるだろう。


 俺がアストレア剣術学院に通うのは四年間。

 寂しく感じることもあると思う。

 だが、俺はこの道に進むことを決めた、だから最後まで努力し続ける。


 今一度、決心を固めた俺は、窓から微かに漏れこむ月の光に優しく照らされながら、眠りにつくのだった――







 *







 晴れ晴れとした気持ちにしてくれるような快晴の中、俺は学院の門をくぐる。

 一歩一歩を踏み出しながら、改めてこの学院のデカさに俺は驚く。

 街の家が何個分か、見当もつかないような土地の広さ。

 今も、まるで新築のように輝いている校舎。


(凄いな〜)と思いながらも、これから行われてる入学式という晴れ舞台に向けて、俺は弾む思いで、足を動かす。





 *





 100名の生徒が集会用とも思われる会場に集められ、独特の緊張感をまとっている。


 その中、正面のステージを歩く人影が見える。

 あれは…どうやら入学試験の説明をいていた人のようだ。

 そして、正面にまで歩き、足を止め、口を開く。


「ようこそ皆さん!まずは合格おめでとう!!心から君たちが来てくれたことを僕は歓迎するよ!」


 とても明るくその男は、祝福の言葉を俺たちに送った。


「ああ、そういえば自己紹介がまだだったな、これは失敬。―僕はこの学院の院長で、名をレグルス・アストレアと言うよ!」


(この名前聞いたことある!)

 確か、王国一の剣の使い手と知られ、数々の英雄譚をもち、《剣聖》と呼ばれている人の名前と同じだ。


 それに、アストレアという名の家名。この剣術学院の名前と同じだ。


「そう!僕は《剣聖》だ!そして、この学院を建てたアストレア家に生まれ育った!

 今年も新しく入学してきた君たちを、どんどん成長させていくつもりだよー!

 さて、僕からの話はこれくらいにして。

 これから、今年度の首席と次席の発表をするよ!!」


 オオォォォ‼︎


 ここで、多くの生徒が期待の声を上げる。

 すると、ついに彼は口を開け、発表する。


「まず、今回次席となった生徒は、ヘスティア・アンタレス!」


 沸き起こる歓声と拍手の中、呼ばれた少女は席を立ち上がって、ステージに登るため、階段を歩いていく。

 だが、よく見たらあの赤髪は、昨日俺に話しかけてきた、よく分からなかった少女だった。

(あいつ、次席だったのか。………ん?てことはもしかして俺、宣戦布告せんせんふこくをされている?)


 もしかしたら、かなりめんどくさいものに巻き込まれてしまった気がするが、取り敢えず考えないでおく。


「そしてー、今回首席となった生徒は、コウ!!」


(あれ?俺の時だけさっきと違って拍手が小さいような…)

 多少の疑問を感じつつ、俺は席を立ち上がり、ステージの方へと向かう。

 次席の少女の隣に並ぶとき、一瞬目が合った気がしないでもないが、気にしないでおこう。


「よし。それでは今から二人には、技の披露をしてもらうよ!それでは、まずはヘスティアから!!」


「はい」


 感情のあまり読み取れない声で返事した少女は、スゥゥゥーーー、と呼吸をし、精神を統一する。

 そして技を放つ。


「"紅蓮一閃ぐれんいっせん"」


 目の前の少女が剣を抜き、一閃するのはとても刹那の出来事だった。

 ただその一瞬、紅蓮の剣気を纏った剣の迫力を感じる。そして、熱も同時に感じ取る。ただの火ではなく、もっと熱く、灼けるような熱。


 まさしく芸術を感じるような技だった。

 赤の多い少女と相まって、その技がより一層輝いて見える。


 まぁ、



「うん。それでは!次はコウの番だ!!」


「はい!」


 剣を抜き、中段の構えをとる。


「"天照あまてらす"」


 瞬時に振りかぶり、瞬時に剣を振り下ろす。

 たったそれだけの動作だが、コウのその技は、美しかった。

 無駄が全く無い一振り。その一振りは極限まで極められていた。

 一瞬にして生まれた剣気は、振り終わると同時に辺りへと広がり、ついには会場全体に行き渡った。

 そして、その剣が纏う剣気からは、神々しい日の光のような暖かさ、熱さを感じる。


 、より圧倒されるその剣技に会場の誰もが驚かされる。


 だが、その中で一人だけ、悔しそうにコウを見つめる者がいた…。

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