第1章 剣術大会編

1.剣術学院

 


 輝かしい光の中、少年――――コウは、家族の方へと振り返る。


「……ただいま」


 コウは微笑んでいた。





 *





「――"刹那斬せつなぎり"…‼︎」


 俺は刹那の間に、目の前の大木を斬り落とす。


 木はとても分厚く、一閃で斬り倒すことはとても困難に思えるが、高速に動く剣は容易く斬り倒してしまう。


「ふぅー。これで二十本目…」


 俺は汗をタオルで拭きながら、空を見上げる。空には夕日が浮かんでいて、寂しい村を照らしていた。


「もう、夕方か……家に帰ろう」


 あんまり遅くまでいると心配させるので、俺は家に帰ることにする。



 *




 あれからというものの、俺はボロボロになってしまった村の復興に力を入れていた。

 多くの人が亡くなってしまった事件だったが、生き延びていた人たちで村の復興の為に日々働いている。

 そしてまた、俺も、また新しく農業をする為の手伝いや、家を建てる手伝いなど、色々なことを手伝っていた。


 ちょうどさっきまでは、家を建て直すに必要な木材を手にするために伐採していたところだ。




「…………」


 家に着いた俺は、自分の家を見つめる。


 俺の家は、これといった特徴は無い。

 村の中で一番広いわけでもなく、とても古いわけでもない。

 最近変わった事と言えば、村の人たちの為に、普段あまり使わない道具を渡した事くらいだ。

 そんな家を、見つめながら少し立ち止まっていた俺は、家の扉を開ける。



「おかえりなさいー‼︎」


「……ただいまー」


 いつものように声を掛けてくれるお母さん。

 お母さんの声を聞いた時、ふと、『守れて良かった』と俺は思う。

 家に着くまでの道中、俺はいくつも壊された家を見てきた。

 そして、どの家にも大切な思い出が詰まっていた筈だ。だからこそ、俺は自分の家を見て、心から安心した。


 しかし、それと同時に、『自分はこの先もずっと守り続けられるのか』、少し不安になった。





 *





「コウー、ご飯の時にお父さんから大事な話があるからねーー‼︎」


 夕飯を作りながら、お母さんはどこか面白そうに告げてきた。


「うん、分かった……」



(お父さんからの話って何だろう?…村のことで何か話す事でもあるのかな…⁇)

 俺は、美味しそうな料理の香りを嗅ぎながら考えていた。




 *




「えっ。俺が剣術の学院に?」



 お父さんから話があると聞いていたが、予想の遥か斜め上で、俺は困惑する。



「そうだ。 コウ、お前はこれまで村の為に一生懸命頑張ってきてくれた。――だが、コウはこんな田舎で一生というほどの時間を過ごすべきではない」


「そうよ、コウ。今のあなたは強い。

 これから多くの人を救う為にも、充実した生活を送る為にも、あなたは王都にある剣術学院に入学するべきだわ。

 きっとそこでの色んな出会いは、コウにとって素晴らしいものになると思うわ」



 父さんと母さんの言う通り、確かに数ヶ月に、王都にある全ての剣術学院が入学試験を行う。

 でも、俺がいなくなったら……村はどうなってしまうのだろうか。

 ただでさえ人手が欲しいというのに、とても不安だ。


「……でも、俺がいなくなったらこの村はどうするんだ?それに王都に向かう為の経費だってかかる!俺の為にみんなに迷惑なんてかけられないよ!」


 俺は、不安の気持ちを二人にぶつける。だが……、



「大丈夫だ、コウ」

「でも!」

「大丈夫だ。コウ」

「あっ……」



 父さんは優しく微笑みながら、俺の頭の上に手を置いた。


「コウ。お前は強い子だ。どんなに辛くても、どんなに痛くても、今まで頑張り続けてきた。

 泣いて、わめいて、全て投げ出してしまいたくなるときなどいくつもあっただろう。でもお前は決して投げ出したりはしなかった!もっと自分に自信を持ってもいいんだよ」


「そうよ、コウ。私たちのことは気にしなくていいの。村の方は私たちでなんとかしてみせるわ。あなたがこの先、安心して、この家に帰ってくることが出来るように」



 俺はお父さんもお母さんの顔を見る。二人の顔は、笑顔だった――



 *




(………、本当にいいのだろうか…? 俺が……、俺だけがこんなにも良い思いをしてしまって……‼︎

 ――ここで、俺が二人の言う道へ進んだら……守れるだろうか。

 今の俺じゃ、お父さんとお母さんのことを――村の人たちを守りきる自信が無い。

 それにお父さんとお母さんは、色々なことを覚悟してくれているのだ。この、お父さんとお母さんの思いを、俺は踏みつぶすことが出来るのか――いや、許されるのか……?)



 *



 俺は、俯きかけた頭を上げる。



「あぁ、ありがとう!俺、絶対に剣術学院に行ってみせるよ! 俺、頑張るよ!!」



 ――俺は、剣術学院に進む道を選んだ。


 (父さん、母さん、本当にありがとう。簡単に言ってみせてるが、本当はきっと、すごく大変なのだろう……

 それでも、応援してくれている。ならば、頑張らないという選択肢は無い……‼︎)



 確かな決意を目に宿しながら、俺はふと疑問に思ったことを聞こうとする。


「……ところで、俺は何ていう剣術学院に入学する予定なの?」


「ああ、言ってなかったな。お前が行く予定の学院は、アストレア剣術学院だ。」


 お父さんは笑顔でそう言ってきた。

(そうかそうか……ん?いや待てよ。そこって確か――)


「……って、えええーーーー!!そこって、王都一の剣術学院じゃんか!!!」


「あぁ。頑張れよ、コウ」


 親指を立ててキメ顔をしながらお父さんは言う。



(……やばい。俺、受かるといいなぁ。)

 そんなお父さんを見ながら俺は、思わぬ事実に心の中で嘆いた――




 *





「……遂にやってきた」


 今、俺の目の前には大きな建物が立ちはだかっている。

 そう、今俺はアストレア剣術学院にいる。

 遂に試験を行う時がきた。


 俺は頬を叩き、気を引き締める。


「よし!行くぞ!!」



 あれからというもの、俺はこの日の為に修行をしてきた。

 少し鈍りつつあった体を、俺はもう一度鍛え直した。



 で鍛え上げた剣術を、今、此処ここで発揮すべく、俺は気合いを入れて、学院に入る一歩を踏み出すのだった――

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