一から剣術を極めた俺は最強の道を往く〜やがて神髄に辿り着く少年の剣術は、この世の全てを凌駕する!〜

朝凪 霙

第0章 少年の革新

プロローグー至高の剣戟ー

 


 少年は剣を無心で振り続けていた。



 晴れの日も、雨の日も、風の日も――いつも、ただひたすらに剣を振っていた。

 剣と共にあった。


 家族を守るために、そしていつの日か憧れた英雄になる為に、


 ――少年は、努力し続けていた。



 しかし、少年の努力が結果に結びつくことはなかった。



 少年が少しずつ成長していっているのに対して、

 少年の周りは、新しい事を学ぶ度にすくすくと成長していく。


 『いくら亀が一生懸命に歩き続けても、空を飛ぶ鳥に追いつくことは出来ない』


 まるでその様子は、『亀』と『鳥』のようだった。



 努力すればするほど、悲しい現実を少年は悟ってしまう。


 今までは、少しずつでも進歩していることに喜びを感じていた少年だったが、このことには流石に焦燥を感じ始めた。



 ――足りない、足りない、足りない、足りない。


 少年はさらに剣を振る。



 けれど、少年と周囲の者達の差は開いていくばかりだ。


 いつしか少年は、『落ちこぼれ』と呼ばれるようになった。



 ――足りない、足りない、足りない、足りない、足りない、足りない、足りない、足りない。



 これでもかというほどに少年は努力し続けた。


 それでも、少年に突きつけられるのは残酷な事実だけだった―――



 少年は泣いた。

 どうしてこんなにも自分は強くなれないのか。


 少年が泣く夜。部屋に差し込む月の光は、いつも少年の涙を照らしていた。



 周囲との差を埋めるためには、圧倒的に時間が足りない。

 いつだって、少年に突きつけられる現実は――、



 ――残酷だ。



 *



 少年は帰り道を歩いていた。


 いつもと代わり映えのない景色。何度も少年はこの景色を見てきた。




「あっ……」


 夕日が沈んでいる。それはそれはとても綺麗な赤色だった。


 ザクッ


 少年の心は微かに痛む。


 見ていると無性に寂しくさせる夕焼けは、少年に不安と焦燥感を襲わせた。




 ふと、少年は何かを感じた――


 それは第六感のようなもので、初めての感覚に少年は戸惑う。


 でも何故か、『家が危ない』ということだけを感じた。



 少年は静まり返った道を駆け出す。

 このどうしようもない焦りの気持ちを胸に抱えたまま、少年は急いで家に向かった――




 ――だが、運命には絶望が付き物だ。



 少年はそれを、身をもって知っている筈だった。



 *



 ―――『地獄』


 まさにこの状況を表すのにはふさわしい言葉だ。 ただ絶望と恐怖を感じ続ける光景。



 少年が村に着いたというところで見た景色は最悪だった。

 少年の村はたった一体の魔物によって蹂躙じゅうりんされていた。



 それは、二足歩行の黒い牛のような外見の巨大な魔物だった。

 その魔物の屈強な腕には、大きな太刀がかつがれている。


 そして何より、その巨大な体には、赤い返り血がたくさん付着していた――



「……っ‼︎」


 少年は恐怖した。

 初めて見るに対し、驚きを隠せない。


 さっきから異臭が漂っていて、少年は吐き気さえも感じていた。

 少年は、気を失いそうになる。



「――っ‼︎」


 我に帰った少年は周りを見渡す。

 魔物に付いている血が家族のものでないことを祈りながら――



 ――幸いにも、魔物に付いている血は家族のものではなかった。


 しかし、少年の視線の先には、少年の家族が魔物に追い詰められている姿があった。


 少年は焦る。

 今すぐ足を動かしたくてたまらないのに恐怖で足がすくみ、一歩が踏み出せない。


 こうしている間にも、魔物は少年の家族を追い詰めていく。

 どうやら、少年の父親は母親をかばっているようだ。


 だが、少年の父親はなにも武器となり得る物を持っていなかった。

 それでも庇い続けている。



 その目には確かな覚悟が垣間見えた。



 ――『こんな形で大事な家族を失いたくない』


 少年の心には、覚悟とも言える感情が芽生え出していた。



 ――失いたくない。欠けさせたくない。助けたい。負けたくない。踏み出したい……‼︎



 魔物が腕を振り上げた。


 しかし、そんな絶望の中でも、お父さんの目には、まだ強い思いがこもっている。


 ――まだ、死なせない!!


 少年は大きく飛び出した。



「はぁぁぁぁあ!! 燕返つばめがえしぃぃぃ……っ‼︎」


 キンッ!!


 魔物の太刀と、少年の剣がぶつかり合う音が、静かな世界に響き渡る。


 威勢よく飛び出した少年は、驚きで目を見開いている親に気付くことなく剣を握り、両手に力を込める。


 だが、少年が魔物の怪力に押し勝てるはずもなく、次第に魔物の太刀が押し込まれていく。


 少年は自然と膝立ちになる。


 そしてまた、少年はだんだんと押し込まれていき―――



 *



 ――少年は一瞬まばたきをする。 そしてまた、目を開くと、


 少年は自然と神秘を感じさせるような、不思議な空間にいた。



「……何だ此処ここは……っ‼︎」



 *



 ――少年は、先程とはうって変わって、にへと


 まず少年は、状況を再確認する。


(ああ、……‼︎)


 目の前の魔物に向けて、少年は不敵な笑みを浮かべながら技の名前を言う。



「"雲外蒼天うんがいそうてん"」



 瞬間――辺りは神々しい空気へと変わる。


 そして今、一つの剣戟けんげきが放たれ、目の前の魔物を浄化する。

 日が沈みきった世界には、一瞬だけ蒼空が広がった。そして、その青空には明るく輝いている光が差し込んでいる。


 さっきまでの全てのことが、まるで嘘のように感じるまでの剣技。



 ――雲外に蒼天あり。


 努力して苦しみを乗り越えた先には、素晴らしい剣戟が作り上げられる。



 少年がで初めて解き放った、至高の剣戟だった――――

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