第8話 川島くんは自分に厳しい
川島くんが休んでいた一週間、川島くんが受け持っていた仕事を、私が引き継いでいた。
私は、必死だった。
川島くんに教えてもらった事、川島くんがしていた仕事、川島くんならこうするであろう事。
川島くんが復帰した時に、現場が雑になっていたらガッカリするだろうから、川島くんにガッカリされないように、精一杯仕事をしなきゃ。
丁寧に。早く。先を読んで、今できる事を、こなしていく。妥協せず向上を目指す。
そう。川島くんは自分に厳しかった。
私への指導も細く厳しいところがあったけど、それは、どんな仕事にも意味があるという川島くんのポリシーからだろう。
「ネギを切る時は、包丁を前に押すんです。刃が当たったところがなめらかに光る。ただ上から押しただけではネギの繊維を潰してしまいます。そんなネギは美しくないし、やはり味も雑になります」と話してくれた事があった。
だから、ぼくはネギ切りマシーンを使いたくないんだと熱く語ってくれたし、揚げ物の時間管理をタイマーに頼らず、必ず揚げ物の揚がる音を聞いていると言っていた。
私は直接調理場には入らないけれど、調理師の川島くんの話しはとても勉強になった。
こんな、社員食堂の片隅でも、こんなに情熱を持って働いている人がいるってカッコイイな。と思ったし、私もそういう人になりたいと思うようになった。
専業主婦になり、子育てをして、久しぶりに社会に出て、ただの時給980円のパートのつもりで始めたけれど、私はここの仕事に誇りをもっていたし、役に立つ人材になりたいと努力もしてきた。
特に、川島くんの休みの間は、気合を入れて頑張っていた。川島くんみたいに自分に厳しく向上したいと思って。
ところが、復帰した川島くんはどういうわけか、人が変わってしまって、、。遅刻はするわ、うわの空だわ、酒の匂いはするわ、コンタクトを落としたとかでメガネになるわ、そのメガネがまた壊れていて、フレームをセロテープで止めているわで、、。
毎日のように部長に叱られている。
結局、復帰して一週間、なんとまた、川島くんは現れなくなってしまったのである。
部長が「川島、無断欠勤何回目だよ、もうあいつはダメだ。電話してみたら、電話止められてたよ。また、パチンコで金なくなっちゃったんじゃないのか〜」と、皆の前で言っていた。
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