第7話 川島くんは空気を読む

川島くんは一週間後、仕事に復帰した。


そして、、、

川島くんは変わっていた。

「おっはよーございま〜す」と笑顔で挨拶する川島くんが調理場の入口に現れ、

すでに仕事をはじめていた私は、大きなステンレスのバッドを持ったまま、一瞬時が止まってしまった。「ぉは…」

川島くんに無精髭がはえていたのである。

すると部長が「なんだ、川島。おまえ、髭ぐらいそって来いよ。 ちょっと、一回事務所に来い! マスクねぇのかよ!」と、大きな声で言って調理場から出て行った。

川島くんは、エヘヘと笑いペロと舌を出して「はいーっす」と部長について事務所に入って行った。


え? どうしちゃったんだろう川島くん…。

私が動揺していると、宗田さんがやってきて、「いつも、ああなのよ。川島は」と右眉を上げている。

「いつも?」「そうよ。一週間も休むと、出て来づらくて、考え過ぎてああなっちゃうらしいのよ。部長によると」

「部長によると? ですか?」

「部長がね、ああやって、休みあがりの川島くんに話しを聞くのよ。川島は、一週間も休んで出て来づらかったと泣くんだって。そして、他に行くところも無いし、クビにしないでほしいと頼むのよ…。そしてね、髭をそって気合を入れ、「初心に戻って頑張ります!」っていうんだけど、、みそぎなら髭じゃなくて、頭丸めないとね」ウフフ。うまいこと言ったとでも言うように宗田さんが笑って、何故か私の腕を小突いて、自分の持ち場に戻って行った。


それから1時間後、髭をそった川島くんがまた調理場に現れて今度は静かに低姿勢に、仕事を始めた。

おまけに、私に「ぼく、何をすれば良いですか?」とか聞いてくる。

私は戸惑い、「ぇぇと、、」と思考が止まる。「ぁ、忙しいところ、手を止めてしまいすみません!」と川島くんに言われ、我に返り。「今日はもう、だいたい終わっているので、あとは、洗い物が下がってくるまで、明日の仕込みを…」と、川島くんにとっては当たり前だろう事を言ってしまい、ハッとする。

川島くんはその空気を読んで「はい、わかりました」と、爽やかに調理場に向かい、じゃがいもを洗い出した。

何故か私は罪悪感みたいなものを感じた。


そこに部長の声が響く「川島〜、おまえなんで芋洗ってんだよっ、明日の献立見たのかよ! 基本だろっ、明日芋なんて使わねえんだよ!! オイ、一週間休んだら仕事すっかり忘れちまったんじゃねぇのかぁ?」

皆、黙ったまま、川島くんを見ていた。

川島くんは「す、すみません」と言った後、何故か私を見て悲しそうに「すみません」ともう一度言った。


なんかかわいそう。

調理場の重苦しい空気を読んで、身を縮めて全身で遠慮している。




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