第6話 川島くんの噂
バスの中で、「仕事、どう?」と、宗田さんから聞かれ「楽しいです」と答えると、「川島くんどう?」と返って来た。
「…、と申しますと?」質問の意味がよく分からず聞き返す私に宗田さんは「辞めないでよ」と言ってきた。
宗田さんの話しは意外だった。
「川島くんが、重箱の隅をつっつくような教え方をするから、今までに来た新しいパートの人は皆辞めちゃったのよ。あなたも辞めてしまう人だと思って、、見てたんだけど、実は、武田さんが来月末で辞めちゃうのよ」
武田さんとは宗田さんと仲良しでやっぱりベテランのパートさん。洗い場はこの二人が回しているようなものだったけど、武田さんは親の介護のため、パートを辞める事にしたというのだ。
宗田さんとしては「だから、今あなたに辞められると困るのよ」と。そんなお話しだった。
「辞めませんよ。やっと仕事を覚えてきたところですし、川島さんも優しいです。捻挫、大丈夫かしら、、心配ですね」私がそう答えると、「え?? 川島くん、今回は優しいの?」とちょっと驚いた様子だった。
そして、「川島くんはね、意地悪をするところがあるのよ。男のくせに嫉妬深いというか、、先週の事だって「参ったなー、ゴミ出しなんてぼくの仕事じゃないのにぃー、ぼくの手は包丁を持つためにあるのになぁ」なんて文句を言いながらイヤイヤ台車を押してたから、あんな事になったのよ。包丁を持つためなんて言ってるけど、調理場で使えなくてホールにまわされたのに。正社員にならずに今もバイトのままだしさぁ。それにね、捻挫なんて嘘。高級車に傷をつけたのは自分じゃなくて台車だ!と言って、部長と揉めたのよ。素直に自分の不注意でしたと謝れば済むものを…。前にも何度か部長と揉めてね、そのたんびに休むのよ。自分が休むと、皆の仕事が大変になるだろうって笑って言うから、私言ってやったの、「川島くんがいなくても、ぜんぜん問題無かった。かえって仕事が早く終わった」ってね。それから、川島くん、私と口をきかないの」と笑って言った。
まさか。
川島くんはそんな人じゃないもの。
真面目で優しくて。多少融通のきかないところはあるけど、、、。
私は、この宗田さんの方が苦手かもしれない。
バスを降りて少し立話しをして別れ際に宗田さんが「なんかあったら、いつでも相談して」と、電話番号を書いたメモをくれた。
私は「ありがとうございます」と言ってメモをかばんにしまった。
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