第5話 川島くんは優しい

ものの場所と、1日の流れが頭に入ると、私の仕事も落ち着いてきた。

「これはどこに…」「どちらを先に使えば良いでしょうか…」「ぇ〜と、すみません、、」と、誰かに確認しなくても仕事が進められるというのは良いものだ。

こうなると、気持ちにも余裕が出てきて同じ仕事でもうまくいくように思う。

仕事のリズムができてくると、手の止まった余白のような時間がなくなってくる。でも私はそのほうが働きやすく楽なのだ。先を読んで、今できる事を見つけて片付ける。効率良く事が進むと気持ちが良い。

川島くんは「適当に休んでください」とか「ぼくがやりますから、大丈夫ですよ」と言ってくれるが、私もいつまでも見習いのままでも申し訳ない。

できれば、川島くんに、これなら任せて大丈夫。と思ってもらえるぐらいになりたいのだ。

私にできることを率先してやろう。

気合が入る。


さて、そんなある日のこと、私は用事があり早退をさせてもらう事になった。


「すみません、ご迷惑をおかけします」と川島くんに謝ると「気にしないで。こういうのはお互い様だから、さあ、あとはぼくに任せて、あがってください」と笑顔で促され、それほど後ろめたくもなく早退できた。ありがたい。

それから土、日、と開けて、月曜日。

久しぶりにパートに出ると、川島くんが休んでいた。

どうやらあの後、私の代わりにゴミ出しに行き、台車に乗せたゴミバケツがひっくり返り、驚いた拍子に転び、おまけに、台車が駐車場の誰のか知らない高級車めがけて走り出し、、、ぶつかったらしい。

川島くんは足を捻挫して休む事になってしまった。

と、パートを仕切っているおツボネの宗田さんが教えてくれた。

宗田さんは古い。誰よりもこの職場の事を知っている。管理栄養士の澤井さんと部長が不倫関係だから、事務所に入る時は、必ずノックして返事があってからドアを開けないと、えらいもんを見ちゃうから気をつけて。とか、業者の八百屋は実は社員の高橋君の実家で、ほぼここの売上だけで商売している、高橋君は余った惣菜を家族分持って帰っている。とか。

まあ、ゲーセワな話題には事欠かない。

今まではあまり話す機会も無かったが、今日はなぜか宗田さんの方から「仕事終わりにちょっと時間ある?」と言われた。

バスで帰ることを告げると、バスで一緒に駅まで帰ろうということになった。







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