第3話 川島くんは器用

ホールの整備が終わったら、麺コーナーの準備。

ここの社食は麺のコーナーがあり、ここはパートが持ち回る。

1日に30人ぐらいは、麺を選ぶ人も来る。

蕎麦、うどん、ラーメンの3種類。


川島くんは調理師免許を持っているだけあって、仕事が早い。

素うどん、キツネうどん、たぬき蕎麦、ラーメン、と続けて入っても、仕上がりを逆算して、一気に仕上げる事ができる。

私がその客さばきに感心していると、「いやいや、ぼくは、ずっとやってますから。慣れですよ。慣れ。ゆっくり慣れてください」と、気持ちを和らげてくれた。


「ネギはどの麺でも5gです」

ん? 5グラムぐらい?

「この量で、5gです」

「これ、適当にやられちゃうと、利益が出ないんで。責任を持ってお願いします」

は! な、なるほど。

「その代わり、揚げ玉は捨てるほどできますから。たぬきの人には多く盛ってあげてください」

はい。

「ラーメンのメンマは5本」

「ゆで卵は、今回から、セルフサービスになりました。聞かれたら、あちらからお取りいただくように、お声がけください」


メモが追いつかない。

ボイスレコーダーが欲しい。


川島くんがそんな私の様子を見てひと言。

「メモを取っていると、メモを取ることに集中してしまい、実際の現場の動きが見ているようで、見えて無いということになりませんか? ぼくは、教えてもらう時は、メモは取りません。覚えておいて、後で要点だけ書いておきますよ」

「ぁ、。なるほど。すみません…」

厳しい…。いや、そうじゃない。私が、甘かったんだ。

頑張ります。


「で、薬味のネギですけどね。ここで切って用意しておきます。だいたい、3本ぐらい切っておけば間に合います。もしも余ったら、夜の味噌汁の具になりますから、余る分には気にしないで。足りないとお客様を待たせる事になるので気をつけて」

はい!

「では、切ってください」

そう言って川島くんは、調理場の奥に行ってしまった。


「ネギ、、ネギは、、どこから…」麺コーナーの後ろの冷蔵庫をパタパタと開け閉めしていると、パートの先輩の武田さんが「何探してるの?」と声をかけてくれた。

「あ、あの、薬味用のネギを…」

「はい、これ、使っていいよ」

武田さんがちょうど持っていたネギを受け取り、まな板のところへ。そしてネギを切り始めたその時、川島くんが戻ってきた。

「あ、、、まだですか?」

「あ、はいすみません」

川島くんが時計を見る。

「今日は良いです。ぼくがやりますから見ててください」

サクサクサクサクサクサク

早い。速い。はやい。

川島くんはあっという間にネギを切り、水にさらし、シャキッと水を切った。

「よけいな辛味を取って、口に残らない薬味にするために、さらしてよく水をきります」

そして、1つため息をつき、

「もしも、ネギ切りに時間がかかるようなら、ネギ切りのマシンがありますから、それを使っても良いですよ」と、調理場の奥から、ネギ切りマシンを出して来てくれた。

ぎょ!! ネギ3本切るだけのために、設置、片付け、清掃の仕事が増えそう…。

「か、川島さん。せっかくですが、、わたし、切れるように頑張りますので。そ、それは、大丈夫です」

「大丈夫ですか? でも、あれのときは遠慮なく使ってくださいね」

はー、、、。

疲れた。

私は明日から麺コーナーに立つらしい。

今日は洗い場を担当しながら、川島くんの後ろで麺コーナーの流れをつかむように川島くんの器用な麺さばきを見つめていた。





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