第2話 川島くんはマジメだ

「ゆっくり覚えてください」と笑顔の川島くんが言う。

パートを始めたばかりの私はなかなか仕事が覚えられない。

たった5時間のパートを終えるとくたくたになるほど、仕事が身につかない。

初日から一週間経ったのに、まだ「あ、すみません」ばっかり言っている。

落ち込む私に、川島くんは「ゆっくり覚えてください」と気遣いの言葉をかけてくれた。

ありがたいです。

頑張ります。


川島くんは、すごいマジメな人。

だから、仕事を教えてくれるのも、超がつくほど細かい。

手順というか、、決まり事がとても多い。


まず、出勤したら、手を洗いうがいをします。

タイムカードを押して、ロッカールールで着替えます。マスクは必ずしてください。

着替えが済んだら、事務所と、調理場で先に仕事を始めている方に挨拶をします。

今日の献立を確認しておきましょう。

調理場から声がかかるまでは、前日の片付けの残りがあれば片付けます。

食洗機に残ったものは無いかなど、きちんと確認してくださいね。

ホールの調味料や楊枝の補充もします。

調味料は1つ1つ、アルコールシートで拭いて、醤油などの減り具合を見て量によっては、新しいものと交換してください。

楊枝の小瓶は1度紙ナプキンを広げたところにひっくり返して中のホコリを払ってから小瓶を拭き、楊枝を戻します。楊枝は35本。

パッケージの文字がきちんと揃うように。

調味料、楊枝、を戻す前に、トレーを拭いてくださいね。

…この調子で、とにかく細かいルールが続く。



要するに、一週間でガッチリ身につくような内容じゃないのだ。


でも、マジメな川島くんは、丁寧に丁寧に5時間みっちり私に付いて教えてくれるんだから、私もしっかりついて行きます。

頑張ります。


あ、調理場から、できた料理がどんどんあがって来ました。ホールにセットしなくては。

「いいから、ちょっと退いて。見てて」皆さんが慌ただしく準備をする中、私は思いっきり足でまといだ。


つらい、、。ただオロオロするだけで、時給980円がつらい、、、。

久しぶりに無力な自分と出会う。

私は、社会で活躍できる人材になれるのだろうか…。

なんという息苦しさだろう。つらい…。

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