希望の光
それはゆっくりと巨大な手を下げ、横たわる男性に魔石を置いた。
筋肉が隆起するように表面の布が盛り上がりミチミチをはち切れそうな音を立てた。
よく見れば体のいたるところが既に千切れている。それなのにこんなに小さい魔石を律義に拾い集めているなんて……。
憐れみを通り越して悲しい気持ちになった。
「命令を解除することはできませんか?」
「魔力が尽きない限りは不可能だ。ここでは尽きるどころか吸収され続けている」
「じゃあ、外へ連れ出せばいいんですね」
「バカを言うな、村がどうなったかはお前が知っているはずだ」
「でもこのパンタルリンには敵意を感じませんよ。襲撃したのはもっと凶悪で」
「それは呪詛返しが起きたからだ。今は大人しくてもおなじことになるかもしれん。それに明かりを掲げてよく見てみろ、既に依り代が崩壊し始めている。もう少しの辛抱だ」
辛抱……でも僕には時間がない。
かと言ってこの可哀そうなパンタルリンを倒すのも嫌だ。
どうすればいいんだ!?
「そのランタン、随分と変な燃え方をするんだな」
「いえ、これは魔石で光る仕組みで燃えているわけではないんです」
急にどうしたのだろうと手元の発光管を見るとダイアルの付け根のあたりから真っ白な火が噴き出ていた。
「魔石が動力と言ったな?」
「はい……」
足元に転がる大量の魔石……。
「早く投げ捨てろ! 爆発するぞ!」
「え! で、でもこれ借りた物なので」
「バカやろうが!」
その人は強引に発光管を取り上げ、坑道の奥へ投げ捨てた。
「さっさと出るぞ!」
「で、でも」
「問答無用だ!」
前言を撤回して外へ出ることに。
パンタルリンも一緒に来ると思っていたら、発光管に含まれる僅かな魔石に反応したらしく、追いかけるように坑道の闇へ消えて行った。
「パンタルリーン! 戻っておいで!」
「言ってる場合か! 早く脱出だ!」
苦しそうなその人を支えながら走る。
その時、真っ暗な坑道に日の光が差し込んだかのように明るく輝いた。
そして真っ白な炎が四方に広がりながら僕たちに差し迫った。
ギリギリのところで何とか外へ出ることはできた。
でも二人とも背中に火がついていた。
「アチチチッ!」大慌てで地面に転がる。
火はなかなか消えなかったけど、不思議なことに燃えた後がなかった。
「魔術には十四の特性がある。これは激化による同質が起きただけで実像までには至らなかったということだ」
「……学者の方ですか?」
「まさか、私は
どんどんと胸を叩き、その人は真っ黒な液体を大量に吐き出した。
「うぇえ、何食べたんですか?」
「これは体内の魔力を変質させて排出したのだ。これこそ最新魔術の真骨頂」
「大変なお仕事なのですね」
エンチャンターさんが言うには坑道の火はすぐに消えると言う。
理屈が難しくて僕には分からないけど、そういうものらしい。
「パンタルリンは無事でしょうか?」
「おそらく最初の爆発で内包する魔力が消し飛んだはずだ」
「そんな……」
「過酷は労働から解放されたのかだから喜んでやれ。それより俺たちの境遇を考えるべきだ」
僕たちは悪者にされてしまったのだろうか?
ふと見上げた空はオレンジ色に染まりかけていた。
「あああ!」
「ど、どうした!?」
「村に戻らないと! 失礼します!」
「おい! まて、お前が証言しないと俺は……行っちまった、どうすりゃいいんだよ」
坑道の火が消え辺りが静まりかえったその時、土を踏む可愛い足音が聞こえてきた。
「パンタルリン!?」
坑道から出てきたのは一体の小さなパンタルリン。
大切そうに魔石を抱え、ちょこちょこと歩いている。
「結合した巨体の一部に魔力が残っていたのか、俺の運もまだ尽きてはいないようだ!」
パンタルリンの可愛い歩みを見守りながらエンチャンターは村を目指した。
そしてロイ君は。
山道をひた走りながらアーネへの連絡をしていた。
「女神様! お願いがあります!」
「ロイ君? どうしたんですかそんなに慌てて」
「今すぐ僕をポートでさっきの村へ飛ばしてください!」
「一体何があったんですか? 事情を説明してください」
「僕はすぐに村へ戻って、ミィさんにキスしてもらわなくてはいけないんです!」
「……は? 嫌ですが」
「どうして!?」
「自分が何を言っているかわかっていますか?」
「もちろんです! お願いします、人命が懸かっているんです」
「そんなわけないでしょう! 悪戯な連絡なら切りますよ」
「僕は本気で言っているんです!」
「なお悪いです!」
第二章 完
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます