パンタルリン討伐

 

 防人の洞窟、話に聞いた通り昔に採掘が行われていた痕跡がある。

 でもそれ以上に目を引くのは石碑だ。大昔にこの地に住み着いた魔女の子孫たちがここで何かしらの儀式をしていたのかもしれない。

 朽ちかけたモニュメントに気がとられてしまうけどそんな場合じゃない。

 ミィさんの命が懸かっている。


 臆している暇はない、ぽっかりと開いた坑道の中へ入る。

 あの場所へ行くなら使ってほしいと工房の人たちが発光管の試作品を貸してくれた。

「えっと、下のダイヤルを捻って」

 パッと明かりがついた、これで三十分くらいなら持つらしい。


 でもこれならランタンとかでもいいんじゃないかな?


 魔力特性のない僕にも分かるくらい、魔石特有の臭いが充満してる。

 工房の人たちが近づきもしないわけだ。魔力が充満してる。

 あちこちにキラキラ光る鉱石、これが全部魔石なのかな……すごい数だ。


「うわっ!」


 よそ見をしていて何かにつまずいた。

 石でも木材でもない柔らかいもの……人だ!


「大丈夫ですか!?」

「うぐぐ、魔石を……どけてくれ」


 転がっていたのは黒いローブを着た男の人だった。

 どういうわけか小石くらいの大きさの魔石が大量に体の上に乗せられていた。

 急性魔力中毒という症状を思い出して急いで払いのけた。


「恩にきる。多少楽になった」

「すぐに外へ」

「ダメだ。私がここにいないとアレが外へ出てしまう」

「アレってなんですか?」

「聞こえるだろう?」

 奥へ続く暗闇に耳を澄ましてみる。

 微かに何かが軋むような音がする。

「パンタルリンだ」

「え!?」

「知らないと思うが、人工的に作られた魔獣だ。ここの魔力を吸い上げてどんどん巨大化している。いずれ依り代がが耐えきれなくなって自滅するかもしれない。それまで俺が止めておかねば」

「それなら大丈夫です。僕は討伐を依頼されてここに来たんです」

「お前が……?」

 男の人はじろじろと僕を見て深くため息をついた。

「どうやら、お互い捨て駒にされたようだな」

「それはどういうことですか?」

「俺が持ちかけられた計画は、村近くの工房で制作しているパンタルリンを使ってここの魔石を拾い集めるというものだった。魔力特性のない人間でもここの環境じゃ長くはもたないからな……でも練成魔獣だってそれは同じだ。魔力を多く蓄えれば主従関係が逆転して呪詛返しが起こる。俺がそう進言すると討伐する者を雇うと言っていた。恐らくそれがお前だ。それにしても随分とケチったみたいだな」

 男の人は苦しそうに笑う。

「僕はお金で雇われたわけではありません。世のため人のため、自分の意志でここに来ました」

「正気か? そんなことだから騙されるんだ……くそ! それは俺も同じか……」

「そんなはずは……きっと予期せぬ事故ですよ」

「どこまでもお人よしだな。あいつは討伐騎士を呼んだ。今頃お前は事を早めるための犠牲者で俺は事件の首謀者だ。あいつは最初からこうなるように仕組んだんだ」

「む、難しくてよく分からないですが……とにかく倒せばいいんですよね?」

「ダメだ、それでは奴らの計画通りに待ってしまう……そうだ、村はどうなっている? パンタルリンが向かったはずだが」

「怪我人は出ましたが、全て討伐できました」

「怪我をした者がいるのか……死者がいないだけまだましか」

「あのう、僕はどうしたら?」

「村へ戻れ、騎士たちに全てを伝えるんだ」

「それは……ちょっと」

「なぜ? まさかお前賞金首なのか?」

「ち、違います! ただちょっと……」

「まぁ、俺も討伐騎士は嫌いだ。気持ちは分かる」

「えぇ……」


 その時、坑道の奥からズシン、ズシンと重い足音が近づいてきた。

「隠れていろ、他者に対しどう反応するかわからない」

「そうはいきません」

「頼むから、言うことを聞いてくれ」

「大丈夫です、僕があなたを守りますから」

「そうじゃない! くそ! どうして変な奴しか現れないんだ!」


 暗闇から除く巨大な姿。僕が見たパンタルリンとは似ても似つかない異形。

「この環境で目的を果たすために依り代同士が結合したんだ。また一段と大きくなってやがる……」

 ハハハと諦めた様に笑う。

 天井に背をこする様にして歩く巨体。数本の足が虫のように稼働している。

 大きな掌に数個の小さな魔石を乗せて主の元へ戻って来たのか。


 全然可愛くないパンタルリンが現れた。

 

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