不安なミィ

「お帰りロイ君、何か分かった?」

「それが……余計に分からなくなって」

「そうなんだ……」

「これありがとう、ちゃんと作用したみたいだよ」

 ミィさんに貰ったチャームを返そうとした。

「いいの、持っていて。一度持ち主が決まると変更できないから」

「そうなんだ。ごめんね大切なものなのに」

「ううん、ちゃんと役に立てて嬉しい」


 ミィさんのお家でもう一度地図を確認する。

 さっきの話に出た防人の洞窟という場所は……。


「あった、少し離れているけど今日中に何とかできるかもしれない」

「退治に行くの?」

「うん」

「終わったら戻ってきてね、夕飯準備しておくから」

「でも、これ以上迷惑をかけるわけには……」

「そんなことないって。それにもう少し旅の話を聞きたいし……もちろんロイ君が嫌じゃなかったらだけど」

「嫌じゃないけど……僕の話なんて聞いても」

「私ね、十五になったら村を出ようと思っているの」

「え?」

「お父さんが街に出稼ぎに行っていてね、その街のアカデミーに通いたいの。でも外の暮らしの事何も知らなくて」

「十五歳……僕が旅に出たのもその歳だよ」

「本当!? 怖くなかった?」

「怖かったし、不安だった」

「やっぱり……」

「でもそれ以上にやらなければならない事があったんだ。だから迷ったりはしなかった」

「すごいね……」

「変な奴だと思われるけどね、ハハハ……」

「それは思う」


 あ、やっぱり……。


「でもカッコいいとも思うよ。私もロイ君みたいに頑張るね!」

「うん」


 ミィさんに見送られて村を後にする。

 分からないことは多いけど、やることは一つだ。

 無様に剣を振るうこと、僕にできることはそのくらい。


「待ってロイ君!」

「え!?」


 振り向きざま、ミィさんが僕に頬にキスをした。


「頑張ってね! 絶対戻ってきてね!」

「う、うん」


 どうしたんだろう急に?


「やってしまいましたな」

「え! お祖母ちゃん!?」


 寝込んでいるはずのお婆さんが傍らに立っていた。


「ロイ様、心して聞いて下され。今のチッスはただのチスではございません。あれは魔女の接吻。心から信ずるものに魂を託す儀式でございます」

「ち! 違う! ただの挨拶なんだから!」

「ロイ様! どうか我が愛しの孫娘をお救い下され!」

「ど、どういうことですか!?」

「魔女の接吻を行ったものは、再びその者に接吻をせねば死んでしまうのです!」

「ええっ! ゆ、猶予はどれくらいなんですか!?」

「ええと……そうですな……夜明け、いや、日没くらいがいいですかな」

「時間がない! 急がないと!」

「嘘よロイ君! お祖母ちゃんの嘘!」

「大丈夫! ミィさんの命は僕が守りますから! 安心して待っていてください!」


 大変なことになってしまった! 

 急いで魔物を討伐して戻らないと!


「フフフ……これでロイ殿は必ず我が家へ戻ってくる」

「お祖母ちゃん……そんな嘘つかなくてもロイ君は夕飯食べに戻ってくるよ」

「…………さすがワシの孫じゃな」

「そ、そんなんじゃないってば!」



 

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