工房の人々

 家を出てさらに山中への道を辿る。


 ほどなくして整備された水路と石畳の道が現れた。


 まるで古い都市を小さく切り抜いて、山中に押し込めたような不思議な眺めが目に飛び込んできた。


 魔女の工房に相応しい風景だった。


「あのぅ……」


 ひときわ大きな丸屋根の建物を覗き込んでみる。


 鉄を打ち鳴らす音、薬品の臭い、そして煌々と燃える大きな溶鉱炉。


「はいよ、誰だい?」


 現れたのは大柄の若い男性、見た目はどう見ても鍛冶職人だ。


「えと、あの、僕は……」なんて言えばいいのだろう? わからなくなってしまった。


「どうした? 迷子か? いや、そんなわけないよな」


「なに事? あらロイ君!」


 よかった! ミィさんのお母さんだ。


「知り合いかい?」


「ええ、旅の剣士様なの。フフフ」


「へぇ、ずいぶん若い剣士がいたもんだ。ハハハ」


 笑われた。どうしよう、言葉が出てこない。でもちゃんと聞かなくちゃ。


「あの……」


 僕が口を開いたと同時に、奥からぞろぞろと工房の人たちが出てくる。


「あっつー」「二版缶じゃ駄目ね、圧力に耐えきれない」「もう飯にしよう」


 そして全員の視線が僕に向けられた。


「誰この子?」


 足が震える。


「この子はロイ君よ、剣士なの」


「剣士?」一斉に聞き返される。


 僕はもうダメかもしれない。




 

 魔女の工房と聞いていたからお婆さんたちが薬を作っているような場所を想像していたけれど、かなり近代化されているみたいだ。

 魔道具と一口に言っても武器や呪物、回復薬に日用品と様々あるらしい。


「今は小型発光筒を作っているの」


「値段が付かないような小さな魔石を使って人工の光を作るんだ」


「そうすれば小粒の魔石にも価値が出るだろ? これは経済的革命でもあるんだ」


 入れ替わり丁寧に説明をしてくれる。でも僕が聞かなくてはいけないのはパンタルリンのことだ。


「あの、みなさん……」


「ほらこれが試作品よ、下のダイアルを回してみて」


「……はい、あ! すごい。ランタンより明るい!」


「でしょ! でも問題は稼働時間なのよね」


「思ったより魔力の流動が激しくて、抵抗を抑えると破裂するし、緩めると眩しすぎる。うーむ……」


 みんな考え込んでしまった。


「さぁ、休憩は終わり。はやく仕上げてしまいましょ」


 ミィさんのお母さんがみんなに声をかける。


 みんな難しい顔をしながらそれぞれの持ち場へ戻ろうとする。


「そういえばロイ君は何しに来たの?」


「実はパンタルリンを探してまして!」


 今しかない! そう思ったら必要以上に大きな声を出してしまった。


「パンタルリン!?」


 全員が驚いた顔で僕を見た。


「あ、あの……ううう」


 足の震えが止まらない。

 


 

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