チャーム
「心配いりません、ただの魔力中毒です」
女神様はことなさげに言う。
「おのれ……女神め」
ベッドの上でお婆さんは呻いた。
「治るんですか?」
心配そうにミィさんが聞く。
「もちろんです。急性魔力中毒といって結界やアイテムの補助なしで強力な魔法を発動させようとすると必要以上に体内に魔力が籠ってしまって起きる症状です。いわば食べ過ぎみたいなものですね」
「よかった。無理しないでよね、お祖母ちゃん」
「ぐぬぬ……」
ミィさんと灰まみれになった部屋の掃除をしながら話を聞いた。
どうしてお婆さんが女神様を攻撃しようとしたのかというと、この集落はもともと女神信仰の者たちによって迫害された魔女たちによって造られたのだという。
なので昔から
「お祖母ちゃんは古い考えの人だから。ロイ君を引き留めたのだって旅人を引き込んで定住させるっていう古いやり口なの。ごめんね、忙しいのに」
「忙しい?」
女神様が口をはさんだ。
「えっと、あの……女神様、実は……」
「ひょっとしてまた誰かのお願いを聞いてしまったとかですかね、私の言うことは何も聞いてくれないのに」
ニッコリ笑顔、でも怒っているのは分かる。
「ええと……」
「ロイ君」
「はい!」
「麓のブラーハットという村に騎士団が来ています。緊急の用件で近くに居た方々に急行していただきました。これからロイ君も合流してください」
「え! でも僕は」
「聞きません! 帰還命令は解除です。部隊と合流して討伐任務についてください。終わったら報告すること!」
と強く言い残して女神様は姿を消した。くっついていた灰がどさりと落ちる。
「私なにかまずいこと言ったかな」
「いつもこんな感じだから大丈夫……だと思う」
でも一応これで公認の任務になった訳だから、良しとしよう。
「ねぇ、さっき魔物の事なにか知っているみたいだったけど、なんて言ったっけ。パルタリ……」
「パンタルリン?」
「そうそれ、詳しく教えてくれないかな?」
「うーん、私もそこまでは知らないんだけど……工房で作っている人がいるらしいから会ってみたら?」
「作る? 魔物を?」
「そう、ちょっと待ってて」
ミィさんは二階の部屋に戻り、何かを持ってきた。
「手を出して」
「はい……」
ミィさんはカラフルな糸で編み込まれた小さな布を僕の手首に巻き付けた。
「これは、
「そう! まだ製作途中だけど、効力はあるはず」
「へぇ、どんな力があるの?」
「力なんてそんな大げさな物じゃないの。言うなれば鍵みたいなものかな」
「鍵?」布を光にかざすとキラキラと綺麗に輝く。
「工房は企業秘密がいっぱいだから、外部の人間が入り込めないように結界やトラップで厳重に守られているの」
「……効力はあるんだよね?」
「たぶんね!」
ミィさんは明るい声で答えて、照れくさそうに笑った。
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