休憩中だから

「それで、あなたはどうしてこんな山奥まで来たの?」


 いい香りのするハーブティを入れながらお母さんは尋ねた。

 

「旅の途中でリンドネアって街に立ち寄ったんですけど、そこで助けを必要としている方たちがいて」


「人助けって訳ね、はいどうぞ」


「ありがとうございます」


 差し出されたハーブティ、紫色のお茶に黄色い花が浮いている。


「洞窟に住む魔物を退治してほしいという依頼だったのですが、村に着いてすぐ襲撃を受けてしまって」


 テーブルに地図を広げる。


「このブラーハットという村です」


「あら大変ね、最近不景気だって聞くし。魔物まで……」


「ロイ君はいくらで雇われたの?」


「僕はお金はもらいません、世のため人のため剣を振るうのみです」


「へー、変な人ね」


「……よく言われます」


「でもいいの? のんびりお茶なんて飲んでて。仕事中なんでしょ?」


「そうです……よね。ハハハ……」


「ミィだって自分の仕事があるんじゃないかしら?」


「今は休憩中なの! ちょっとくらいいいじゃない」


「まったく、いつまでたっても終わりやしないんだから。私ちょっと工房を見てくるけど、しっかりやるのよ」


「はいはい、がんばりますよ」


「ロイ君はゆっくりしていってね」と言い残してお母さんは出掛けて行った。


「あー、面倒だなあ」


「しっかりおやりミィ」


「ミィさんの仕事って」


「村の仕来りで、切った髪を編み込んだチャームを作るんですじゃ」


「へぇ、すごい」


 さすが魔女だ。


「面倒くさいなぁ……ロイ君の仕事は? 魔物倒せそう?」


「強い魔物ではなかったので倒すことはできると思うんですけど……なんだか変な感じだったんです。布でできた猿みたいな」


「布でできた猿……それってパンタルリンじゃない?」


「パンタルリン?」


「ロイさまや、この婆も戦に連れて行って下され!」


「え!?」


「ロイ様からは魔力を感じませぬ。魔法が使えないとなるといざという時に困るでしょう? この婆が補佐役になりましょう。ご安心下され、こう見えても魔女の端くれ、黒魔術には精通しております」


「お祖母ちゃん無理言わないで、ロイ君困っているじゃない」


「何を他人事のように! 将来の……ごにょごにょ。何かあったら大変じゃろが!」


 お婆さんが仲間になった。いや、それはちょっと困るな。


「大丈夫です、僕にはこれがあるので」


 簡易魔法陣スペルパレットを展開して見せた。


「これは……なんじゃ?」


「キレイ! でも、どうなっているのこれ?」


 なんだか二人は腑に落ちないといった顔をしている。

 魔法が使える人には僕に見えない何かが見えているのかもしれない。


「やっぱりいましたね! ロイ君!」


「え?」


 女神様の声がしたと思ったら、背後に女神様が立っていた。


 血の気が引く思いがした。


「帰還命令が出ているはずのあなたがどうしてこんなところにいるのですか?」


「め、女神様こそ。どうしてここが……」


「スペルパレットが発動すればあなたの居場所くらい!…………コホン、私は女神ですよ。なんでもお見通しです」


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