魔女の一族




「じゃあずっと旅をしているの?」


 ミィさんが僕に聞く。


 お母さんが帰ってきてくれたおかげでお婆さんの質問攻めからは解放されたけど、流れで昼食を頂くことになってしまった。


 僕は何をやっているんだろう?


「これミィ、飯の支度をなさい! いつもはこの子が作るんですよ、とてもおいしい料理が」


「嘘つかないでお祖母ちゃん、私料理なんてできない。それにお母さんに見張りを頼まれたの。お祖母ちゃんがロイ君を困らせないようにって」


「ぐぬぬ」


「僕は……魔物の討伐を……」


「へぇ! そんなすごいことやってるんだ。うちの魔物も退治してくれないかな」


「なんじゃとぉ、ミィ! 尻を出せい、真っ赤になるまでひっぱたいてやる」


「もう、冗談よ」


 クスクス笑うミィさん。


 穏やかな雰囲気。美味しそうな匂いも漂ってくる。


 勇気を出して切り出さなければ……任務中だと。


「あの、あの僕は……」


「はい、お待ちどうさま。とれたて野菜の田舎魔女パスタです」


 ニッコリ笑顔のお母さん。


「ありがとうございます。すごく美味しそうです」


「フフフ、ありがと。それからこれ、お探しの地図です。ご飯食べ終わったら見てね」


「え!」


 地図あったんだ。


「こりゃ、せっかくワシが時間を稼いだのに」


「えぇ!」


「……はて? 地図をお探しでしたかな? どうにもおいぼれは物忘れが激しくて」


「いつもこうなのよ」


 ミィさんがこっそり教えてくれた。お婆さんは素知らぬ顔でパスタを啜っている。


「困った人なんだから」




 一方そのころ。


 怪しい男に逃げられたシャムーンはネックレスにはめ込まれた連絡水晶を使って女神アーネに報告をしようとしていた。


「はい、こちらアーネです」


「アーネ様、六番隊のシャムーンです」


「ご苦労様です、シャムーンさん。先ほどクラック隊長から連絡をもらいましたよ。単独任務中なのですよね?」


「はい、それが先ほど怪しげな男に出会いました。くしくも取り逃がしてしまいましたが、どうにもこの一件裏がありそうです」


「…………シャムーンさん、今本当にお一人ですか?」

 

「な! まさか先ほどの男が!?」


「い、いえ。違うんです! なんだか、私の知り合いが近くにいるような気配が……ポートを開いていただけますか?」


「もちろんです!」


 シャムーンはレイピアの先で地面に魔法陣を描く。

 トンと足踏みをすると、線が光だして眩い輝きとともにアーネが現れた。


「アーネ様! このような汚い姿での出迎え申し訳ありません」


 シャムーンは片膝を着いて出迎えた。


 しかしアーネはそれどころではないといった顔で辺りをきょろきょろと見渡していた。


「いかがなさいましたか?」


「あ、いえ。特には……私少しこの辺を見て回ります」


「そうですか。村はあちらになります。私は魔力の痕跡を辿りこのまま進みます」


「頑張ってくださいねシャムーンさん。でも決して無理はなさらないでくださいね。怪我をしては元も子のありませんから」


「ご安心ください、私は風使いのシャムーン。騎士の誇りに賭けて任務を全ういたします」


「はい、期待していますよ」


「失礼いたします」


 深くお辞儀をして歩みだすシャムーン。彼は密かに拳を握りしめニヤニヤと笑みを堪える。


「アーネ様、いつ見てもお美しい……」


 見送ったアーネはやはりそれどころではないといった面持ちでソワソワしている。


「おかしいですね、近くにロイ君の気配が……」


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