第二章【可愛いパンタルリン】

ブラーハット・伐採の村



 山中にあるブラーハットという村から連絡があったのは昨日の事だった。


 見たこともない魔物の襲撃を受けたのだという。


 指令を受けた騎士団が到着したのは翌日の朝になってからだ。


 


「ようこそいらっしゃいました騎士様がた」


「挨拶は後だ、状況を確認したい」


 馬に乗った騎士五名、伐採した材木が山積みになった村の入り口に降り立った。


 出迎えたのは村長と数名。この立地の村にしてはずいぶんと小綺麗な服装をしていた。


「こちらです、昨晩もまた襲撃を受けたのですが……」


「何だこれは?」


 村の北西、ゴミの集積所になっている場所にソレの死骸は転がっていた。


「半分くらいは燃やしたのですが」村長は焼却炉を指さした。


 しかし、まだ多くの死骸は残されていた。


 それは一見猿の様な姿をしている、身長一メートルほどの体にはカラフルな布が包帯のように巻き付き、指先から顔までも覆われている。


 死骸は部位を鋭利に切り取られていたが、血液のようなものは見られなかった。それどころか断面には肉もなく表面と同様の布か幾重にも巻き重ねられているだけのように見える。


 騎士達がこれを魔物と認識するのは難しかった。


「ただの人形のように見えるが……何かの冗談か?」


「いいえ、まさか! 見てください、ケガをした者もいるのです」


 確かにケガ人もいる、何より村の者たちが怯えきっているのは表情から伝わってくる。


「ムムム……」


 隊長は困り果ててしまった。


「……これは、練成魔獣かもしれません」


「知っているのかシャムーン」


 五人の騎士の中で一人だけ出で立ちが違う男が一人、騎士というより魔導士のような風体だ。


「昔似たような術を見た気がします。器として体を造り魔力によって使役する」


「……では、何者か裏で手を引いていると?」


「その可能性はあります。これを倒した者は? 状況を聞きたいのだが」


「それが、通りすがりの若い剣士様が退治してくださって。その方は巣があるかもしれないと山へ入って行かれまして……」


「勇者様はあっちの方に行ったの!」


 小さな女の子が大きな声で話に入ってきた。


「勇者?」


「ハハ、きっと例の噂ですよ、隊長」


 団員が茶化すように言う。


「魔物が来たのは南側です、その方もそちらへ。真夜中だったので止めたのですが……聞く耳持たなくて」


「んん、仮にその練成魔獣だったとして、巣を作ったりするのか?」


「まさか、繁殖どころか食事もしません」


「無駄足だな」


 全員が通りすがりの剣士に同情した。




「無駄に話している時ではないな。襲撃に備えてできるだけ村の守備を固めよう、武器になる物はあるか?」


「伐採に使う道具なら」


「それでいい。人を集めろ、南側にバリケードを張るぞ」


「は、はい!」


 村長が声を上げ、村全体が騒がしくなった。


「隊長」


「なんだシャムーン?」


「まだ死骸に僅かながら魔力の波動を感じます。かなり特殊なものです。これなら痕跡を辿れるかもしれません」


「なるほど、危険が伴うと思うが……やってくれるか?」


「もちろんです」


 シャムーンは仰々しくお辞儀をした。


「おい、死ぬんじゃねーぞ」


 他の団員が彼に言う。


「フッ、私を誰だと思っている。我こそは風使いのシャムーン。その逃げ足は早馬の如し!」


 ワハハと団員たちは笑った。


 


 一方そのころロイ君は――――――。


「おかしいな、どっちから来たんだっけ?」


 道に迷っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る