リガルス討伐


 魔力残量が底をついた。

 傷の治癒はギリギリ。出血は止まったけど、応急処置に過ぎない。

 スクラファさんは話を終えると、静かに目を閉じた。弱いけどまだ脈はある。

 僕にはリガルスさん気持ちがよくわかる。

 僕だってきっと同じことをするだろう。

 だから、討伐しなくてはならない。彼の名誉のために。


「サラマンダー、スクラファさんのことお願い」

「ぴぃ」


 可能な限りの装備を外して身軽になる。

 魔法が使えなくなった今、あの攻撃を喰らえば即死は免れない。

 戦い方はスクラファさんが示してくれた。

 あとはいつも通り、突っ込んで無様に戦うだけ。


 王の間中央に立ち、剣を掲げ挑戦の意図を示す。

 リガルスは武器を取り、立ち上がった。


「虚勢の王リガスル、トリアス騎士団の命において討伐させていただきます」

 実際に向かい合うとその大きさにたぢろぎそうになる。


「フ―、落ち着け。いつも通りにやるだけだ。行くぞっ!」

 まっすぐに走り出す。

 リガスルは「ブオォオオオ!」凄まじいい叫び声を上げた。


 ハッタリだ、何もかもが嘘。

 戦いを避けようとする弱者の威嚇、嘘偽りで取り繕った虚勢の王。


 メイスの一撃が来る。振り下ろされるタイミングで横へステップを踏んで交わし、一気に懐へ入る!

 次は剣の突き……でも避け切れない! 思っていたより剣は大きく、早い!


「オォォォ!」


「ウァアア!」

 僕も負けじと叫んだ。


 顔面ギリギリのところで剣で受け流す。ガリガリと刃が削り取られ火花が散った。

 次の一撃が来る前に勝負を決める。

 圧倒的な体格差、だけどチビの僕からは急所が見える!

 更に接近して、抱き着けるほどの近距離へ。相手からすれば一時的な死角だ。

 剣を両手で掴み、全力で真上に突き上げる!

 鋭い剣先が兜と鎧の僅かな隙間に滑り込む、そして――――

 全体重をかけて刃を垂直に振り抜く!


 

 ザリッ!


 

 乾いた骨と肉がちぎれる不快な音が響いた。

 残った僅かな皮膚では兜の重みに耐えきれず、ズルリと垂れ下がり、地に落ちた。

 コールタールのような真っ黒でドロドロした体液が溢れ出た。

 

 それでもリガルスは負けを認めなかった。

 メイスを手放し、僕に掴みかかろうとする。しかしそれも烈火の爆風によって阻まれた。


「ありがとう、サラマンダー」

「ぴ!」


 頭と左腕を無くしても王は立ち続けた。

 でも、これで形勢逆転だ。

 狙うべきはスクラファさんが開けた鎧の穴。


「サラマンダー! 力を貸して、これで最後の一撃にする」

「ぴい」


 サラマンダーが小さな体を奮い立たせて力を振り絞った。

 剣に炎が宿り真っ赤に輝く。


「行くよ!」


 僕は突進した。死を超えてなお王であり続けようとする彼の嘘を暴くため。

 彼を救うための最後の一撃

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る