危機的状況

 リガルスがスクラファさん手放したのと、結界が消滅したのはほとんど同時だった。

 僕は無我夢中で簡易魔法陣スペルパレットを開いた。

 魔法陣の中の文字がグルグルと回りながら文字を刻む。


 ――我は光、我は主、汝契約の名において我に従え、吹き抜ける自由よ、その力を示せ――


疾風ゲイルッ!」

 そして魔法が発動する。

 駆け出した最初の一蹴りで数メートルも先に進む。僕の体は風のように軽く素早くなった。

 スクラファさんが床に落ちる前に抱き留めて、リガルスを蹴飛ばした反動で一気に距離を取り、入り口の近くまで避難する。


「分かりますか?」

「ロイ……君……」

 意識はある、でも傷が深いし出血も……。

「すぐ治癒します」

「……いいの」

「よくないです!」


 これ以上この人を動かしたらダメだ。でも今攻撃されたら、あの強打を止める手段がない。

 僕の使える回復魔法は初歩的なものだ。これだけの傷を治すには時間がかかる。


「あれ?」

 リガルスは追撃をしてこない。

 それどころか、起き上がると何事もなかったかのように玉座へ戻った。


「彼はもう、記憶を繰り返す亡霊でしかない……」

「まだ話してはだめです」


 内部の組織を修復、それから皮膚も……だめだ、残りの魔力を全部使っても完全に治すことはできない。

 流れ出した血を戻すことも、作り出すこともできない。

 集中するんだ、広く浅く、全体をギリギリのラインまで修復するんだ。


「全部私がいけないの……最初の指令を、全うできなかった私が……」

 スクラファさんは弱り切った声で、静かに語りだした。

 自問自責の果てに至る、愚かな女神の物語を――――――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る