沈黙の答え

「こっちよ!」

 入口まであと少しのところでスクラファさんは急に向きを変えた。

 真横にそれて、城壁の上へ続く階段を上がる。

「私の事、信じられる?」

 急に聞かれて、僕は訳も分からず「はい」と答えた。

「それじゃあ――――」

 抱き寄せられて、そのまま城壁から飛び降りた。

 

「うわあああ!」


 真下に見えるのは、ダンジョンを覆う霧の大地に口を開けた底の見えない大きな亀裂。

 なんで、どうして!?


「お、落ちるぅ!」

「落ちないわよ」

 トンと足が付いた。

 絶望的な風景は消え去って、僕たちは城の中に入っていた。


「現実のルートを辿るって言ったでしょ。ちょっとこの子お願い」


 スクラファさんはサラマンダーを僕の肩に乗せた。

 まだ心臓がバクバクと音を立ててる。

「ぴぃ?」

「大丈夫……だよ」


 腰が抜ける思いだった。

 近づこうとすれば遠ざかる、か。

 偽物の道、偽物の入り口。全て迷わせるための罠だったのか。

 ここはもう城内。後ろでバタンと扉が閉まる音がした。

 スクラファさんが閉めて、入り口に結界を張っているようだった。

 僕たちは扉を蹴破って入って来たのか。

 もう何も信じられないや。


「これで時間が稼げるわ、今のうちに王の間へ行って」


 約束通り、同行するのはここまで。


「はい、必ず使命を全うします……あ、サラマンダーを」

「いいの、その子を連れて行ってあげて。少しは役に立つと思うから」

「ぴぃぃ」


 サラマンダーは寂しそうに鳴いた。

「平気よ」とスクラファさんがほほ笑む。


「さぁ、急いで。王の間は二階よ。そして私は地下の宝物庫!」

「はい、気を付けてくださいねスクラファさん」

「あなたこそ、気を付けてね」


 それぞれの目的を果たすため、僕らは分かれて別の道へ進んだ。



 

 薄暗い城内をサラマンダーの灯が照らす。

 かつては繁栄を極めた王の城も、すっかり煤けた廃墟になってしまっている。


「こっちかな……」


 広間の先に長い階段があった。

 ここを上がれば二階に着くだろうか。


「やけに静かだね」

「ぴぴぃ」


 外はあれだけ敵がいたのに中に入ってから全く見かけない。

 止まった時間の中を歩いているような気分だ。


 階段の先は暗くてよく見えない、何が待ち構えているかもわからないから火をつけるわけにもいかなかった。

 剣を構え、音を立てないよう慎重に進む。

 長い間放置された城だから構造が歪んでしまっているのだろうか、なんだか平衡感覚が狂いそうな感じがする。気持ち悪くなりそう。

 体の重心が後ろに傾く、転ばないようにバランスを保とうとして気が付いた。

 上っていたはずが、下っている!?

 途端に暗闇が晴れ、目の前に扉が現れた。


「まさか……」

 扉の向こう、サラマンダーの火が照らし出したのは、抱えきれないほどの金銀財宝の山だった。

「どうして僕が宝物庫に……あっ!」



 ”近づこうとすれば、遠ざかる”

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