古城群

 深い霧の世界。

 見えてくるのは無機質な城の廃墟ばかり。

 どれも崩れかけていて、よく見れば植物のように土から生えてきているみたいだ。

 静かで物悲しい場所だった。


「どうして魔法を使わなかったの? 加護を持っているんでしょ?」

「僕は使える魔力が限られているので、温存しておかないと」

「あの状況でそんな事を考えてたの? あきれた」

「もともと僕には魔術特性が無いんです。女神さまにもらった 簡易魔法陣スペルパレットに込められた分量しか使えないんです」


 簡易魔法陣スペルパレットを展開して見せた。


「へー、面白い構造してるわね」

 スクラファさんはちょいちょいと魔法陣を突いた。

 なんだかムズムズする。


「スクラファさんの魔法すごかったです、あれが精霊の力……ちょ! スクラファさん! 服が燃えてますよ!」

「え? どこ?」

「か、肩のところ」

「ああ、よく見て」

 スクラファさんが屈んで肩を寄せる。めらめらと燃えているのは服ではなく、服にくっついたトカゲのような生き物だった。


「魔力の濃い場所だから実体化したのかしらね」

「これが精霊?」


 思っていたのと違う、すごく小さい。

 ずんぐりむっくり、のっぺり。


「ぴぃい」と可愛い声で鳴いた。

「まだまだ子供でね、わがままばかり言うの」

 スクラファさんは指先で撫でた。

 子供でさっきの破壊力、大人になったらどうなってしまうのだろう。


 

 

 アンデットはそこら中にいる。

 可能な限り戦闘を避けて、崩れかけた外壁に身を潜めながら進んでいく。

「襲ってきませんね」

「この子が結界を張ってくれているからリガスルも見つけられないみたいね」

「ぴぃいいい」

「はいはい」

「なんて言ったんですか?」

「辛いから早くしろって」

 小さなサラマンダーはプルプル震えながら頑張っていた。かわいいな。


 


 巨大な外壁に開いた穴を通り、傾いた聖堂を抜け、高くそびえる石橋の下を潜り抜けた。

 いくつもそれらしい立派な城があったけど、スクラファさんは見向きもせず道なき道を進み続ける。

 行く手を塞ぐアンデットは僕が切り捨て、更に先へ。


「ここよ、間違いないわ」

 スクラファさんがそう断言したのは、朽ちかけた城壁に囲われた巨城。

「中に入れば位置がばれるわ。敵の数も比じゃないわよ」

「はい、覚悟の上です」

「オーケー、現実のルートを辿るけど、戸惑ってはだめよ。しっかり着いて来てね。この子もだいぶ疲れてるからさっきみたいな大技も期待しないで」

「はい」

「じゃあ、行くわよ……えい」

「えい」

「おー!」の合図で、城門を魔法で打ち破り走り出す。

「止まらないで!」


 城の入口へ続くまっすぐな道のり。

 その両端には何十、何百体の甲冑の兵士。

 長い間整列したままこの時を待っていたかのように、僕たちの侵入を感知して積もった土ぼこりを振るい落としながら緩やかに動き始める。


「お疲れのところ申し訳ないんだけどっ、あと少し頑張ってくれないかしら!」

「ぴぇぇぇ」とサラマンダーの悲鳴。

滾るたぎる炎よ、以下略ッ!」


 前方に立ちふさがるアンデット兵が爆発で吹き飛んだ。


「うあああああ!」


 スクラファさんの叫びで、前方にいくつもの爆発が起きた。

 勢いと気合、案外魔法には大切な要素なのかもしれない。

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