霧の中の魔物
ダンジョンに捕らわれた者はその発生源のダンジョンマスターの意思によって操られる。
肉体も魂も敵対者へ向けられた刃の一端に過ぎない。
もはや個人の意思はなく、衝動に突き動かされるだけ。生前の記憶にある憎しみや破壊衝動に任せて剣を振るうのみ。
しかし、動きは遅く、体に染みついた動きを繰り返すばかりである。
彼らに対峙する者が危惧すべきこと、それは彼らが死を恐れないということだ――――。
「キリがねぇ、一旦退くぞ」
「ダメよ、もうダンジョンに取り込まれてる。帰れる保証はないわ」
「クソが! 早くしろスクラファ!」
「わかってる!」
「親方ぁ、どうするんですかぁ」
「距離を取って耐えろ! ……あのガキ、なんつー戦い方してやがんだ」
僕はまだ小さいし、大人に比べて筋力も低い。だから剣の一撃に重みが無く、十分なダメージにつながらない。この体で戦うためには根本から戦い方を変える必要があった。
最初は簡単だと思った、全体重を乗せて思い切り力を込めて撃ち込む。ただそれだけ。
でもそれだと隙が増えるし、接近されると対応できない。だから僕は体術を学んでキックやパンチで隙を埋めながら態勢を整えることにした。
その結果、無駄な動きが増えて、今度は体力的な問題が生じる。常人以上、いや、それ以上にスタミナが求められた。
剣術のために体術を、体術のために体力を。僕の考えは最初から破綻していた。
でも、僕にはこれしかなかった。
必要以上に重い剣を選んで体重を乗せて力いっぱい振り下ろす。接近される前に蹴飛ばして、掴みかかられたら肘打ちで突き返し、両手に持ち替えて水平に薙ぎ払う。
態勢を整えるため地面に膝や手を着き、回避のために転がったりもする。
およそ騎士の名に相応しくない、無様な戦い方だ。
はっきり言って恥ずかしい。できれば見られたくない。
「親方、こいつらどんどん湧いてきますよ」
「だったらなんだ、疲れたから休憩させろって言うのか」
肉を切り骨を断っても、相手は死にはしない。どうにか動きを止めるため、部位の破壊に専念するしかなかった。
身動きが取れなくなり横たわる不死者の残骸、それを蹴飛ばしてスペースを確保する。
息が上がり汗が滴る。果たして精霊の魔法が発動するまで持つだろうか。
誰もがそんなことを考えた、その時だった。
「……おい、マジかよ!」
「ちょっと、ハロース!?」
ハロースさんに歩み寄る人影が二つ。
「べラム、ルコー、生きてやがったのかクソ野郎ども!」
涙交じりの嬉しそうな声でそう言うと、ハロースさんはゆっくり歩みだした。
一人は小さな丸盾と湾曲した短刀。もう一人はハンドアックスの二刀流。
二人の装備にはハロースさんのギルドの紋章が入っていた。
「心配かけやがって」
ハロースさんが笑顔を浮かべたその時、二人は緩やかに戦闘の構えを見せた。
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