邪魔者

「結局そのガキの口車に乗ったのか、まあ、止める気はないけどな」

「だったら何の用? 心を入れ替えてお見送りでもしてくれるのかしら」

「そうそう、俺たちは心を入れ替えて……あんた達に協力することにしたよ」

「はあ?」


 え……これ以上人増えるの?

 困るなあ……。


「役に立つぜ、少なくともそのガキよりはな。なぁみんな」


 へへへと笑う声が周囲から聞こえた。

 いつの間にか囲まれていたみたいだ。


「悪いけど人員は足りてるの。他を当たって頂戴」

「そうもいかねえ、こっちだってこのまま引き下がれねえんだ」

「だったらどうするのかしら……」


 風が冷たくなる。スクラファさんが魔法を使う気配だ。

 僕にも分かったのだから当然ハロースさんたちにも伝わっていた。


「そう来ると思ったぜ!」

 ハロースさんは見慣れない物を取り出して、僕たちに向けた。

 何だろう? 鉄製の靴? でも穴が開いてる。


「クラックガン、わざわざそんな物まで」

 スクラファさんは呆れ顔で言った。


「五連装破裂式放銃、実戦じゃ何の役にも立たねえが、あんた一人やるぐらいなら十分だろう?」

「スクラファさん、あれなんですか?」

「大きい音で鳥を追い払う玩具よ」

「いい度胸だ」


 バンッ! 


 破裂するような音がして背後の立て看板が吹き飛んだ。

「すごい! あれも魔法ですか?」

「ロイ君、火薬って知ってる?」

「さっさと歩きな。安心しろ、城までは警護してやるからよ。大事な案内人だからな」

「ったく……そういうところよ、あんたは」

「あ?」

「その程度で優位に立ったつもり? 舐められたものね」

「強がりも大概にしろよ、状況を正しく把握できなきゃ長生きできないぜ」

「十分生きたわ、それに状況を理解できていないのはあなたの方」


 張り詰めた空気、僕はすごく苦手だ。

 お腹の奥が締め付けられるような気がする。

 そういえば、こういう時は何か面白いことを言えばいいと聞いたことがある。


「えっと……隣のお家が塀を立てたらしいんです、それで、あの……」

「黙って」

「あ、はい……」


 失敗した。


「親方、なんだか様子が」

「誰かに見られているような、ほら、鳥肌が」


 ギルドの人たちが騒ぎ出す。

 僕もなんだか顔が熱くてたまらなかった。


 ハロースさんも気が付いているはず。何か良くないものがゆっくり手を伸ばしてきていることを。


「バレたみたいね」

 スクラファさんがそう言った直後。ダンジョンの方から吹き降ろすような生暖かい風が吹き、押し出されるように霧が広がった。


「お、親方」

「慌てんな、陣形を組め。同士討ちだけは勘弁だぜ」


 ランタンの明かりがかき消され、月明かりすら届かない濃霧の中、僕たちの視界は完全にふさがれた。


「火よ、もっと高く!」

 詠唱というより直接的な命令みたいだ。

 火はスクラファさんの真上に飛び、大きく強く輝いた。

 くりぬいた様に周囲の霧が晴れた。

 自然とみんな集まって、火を中心に陣が組まれた。


「おい! なんでお前が真ん中に居んだよ!」

「生きて帰りたければ全力で私を守りなさい。来るわよ」


 かがり火吸い寄せられるように霧の向こうから現れたのは、無数の動く死体。

 ダンジョンに捕らわれた亡者たち。


「たかが死体だ! ビビんじゃねえぞぉ!」

「おおおおお!」とみんな声を上げた。

「バカ、引き寄せてどうすんのよ。ロイ君、どこ行くの?」

「前線に出ます」

「バカ言わないで!」

「平気です、僕がみんなを守ります!」

「…………プフッ!」

「なんで笑うんですか!」

「ごめんね、流石にちょっと頭がおかしいなって」

「よく言われます」


 落ち込むなぁ。


「一分でいいから時間を稼いで、その間に説得するから」

「説得?」

「境界が揺らいで気持ち悪いって駄々こねてるのよ」


 スクラファさんは頭上の火を指さしてそう言った。

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