スクラファの話
「へぇ、じゃあ女神の加護を?」
「加護と言いますか、過保護というか」
スクラファさんと同じテーブルで話をすることになった。
意外と気さくな感じの人だった。
「フフ、同じようなものね。女神は秩序と慈愛の象徴、でも気に入った人にはとことん甘いのよ。でもあなた、それだけじゃないでしょう?」
「え? いえ、他に特別な力なんて」
「これ」
スクラファさんはトントンと金貨を突いた。
「魔族の臭いがする」
ガシャンとお皿が割れる音。
店仕舞いをしていたダリーさんが青ざめた顔でこっちを見ている。
「それは使い魔が持ってきてくれたからです」
「使い魔ってこんなに臭うかしら? この臭いは間違いなく
「えっと……一人だけ」
ガシャンとまたお皿が割れた。
「ちょっと! 何やってるのよ!」
「……すまねえ」
「ダリーさんどうしたんですか?」
「何でもないわ、ちょっと信心深いだけ」
スクラファさんは昔からこの辺で占いや呪いをして生計を立てているらしい。
だからリガルス王の事についてもよく知っていた。
「暖炉の上に絵があるでしょう」
立派な額に収まった絵画。
黒い旗を持った甲冑の騎士が王様の胸に剣を突き立てている。王様は苦悶の表情を浮かべているものの、その半身は怪物へ変化しようとしている。
「伝承にはこうあるわ。騎士は忠義を捨て、怪物となった王に刃を向けた。しかし止めには至らず、強欲な王は最後の力で城の全てを深淵へと沈めた」
「その後女神さまがお城を封印したと聞きました」
「あら、詳しいわね。でも封印は完全なものではなかったの。少しづつ混沌は漏れ広がり浸食を始めた。ここのダンジョンはね、リガスル王の願望の写し鏡なの。敵対者を遠ざけたいっていうね。だから闇雲に挑んでも決して城にはたどり着けないわ」
「……それでも、いえ、だったら尚更、僕は行かなくてはいけません」
「どうして? 明日には仲間が来るのでしょう?」
「だからです、騎士の人たちを危険に晒すわけにはいかないんです!」
「……あなたはいいの? それとも女神の加護があるから平気ってこと?」
「加護がなくても僕はいきます。世のため人のため、僕は戦わなくちゃいけないんです」
「あらー、若いって素敵ね」
「若くなくても僕は」
「わかった、わかった。まぁ、得てして宿命ってそういうものよね」
「宿命?」
「そのうちいつかって思っていてもなかなか手を出せないことってあるでしょう? ついに来たかって感じだわ」
「それはどういう意味でしょうか?」
「いい? 城は当時のまま封印されたの。ということは宝物庫もそのままってこと」
「それはそうでしょうけど……」
「もう、とぼけちゃって! 王家の財宝よ、ワクワクしない?」
「スクラファさん、ついに行くんですか?」
「そうよ、この子に賭けてみようと思うの。分け前は多いに越したことないしね」
「え! 一緒に行くってことですか!?」
「当たり前でしょ、あなた一人で行ってもアンデットが増えるだけだし、女神の軍勢が来るなら宝を手にするチャンスは今夜が最後」
「ぼ、僕は一人の方が……」
「なによ、私じゃ不満って言いたいの?」
「そ、そうじゃないんです。でも……」
「んー、じゃあこうしましょ。一緒に行動するのは城まで。中に入ったら別行動ね。あなたは討伐、私はお宝。それでいいでしょ?」
「………………………………………………はい」
「そんなに長く考えないと出ない答えかしら」
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