手負いのハロース


「見てくれ! トレニアスの金貨だ」

 ダリ―さんは血相を変えて金貨をみんなに見せた。


「あんたこれをどこで?」

「えっと、本部の人から」

「てことはあんた……あなた様は、き騎士様でございまするか?」

 慌てふためいて変な言葉使いになるダリーさん。

「騎士ではないですが、一応所属という扱いではあります……非正規ですが」

「なにいい!」

 ダリ―さんは震える手で金貨を突き返してきた。

「騎士様から金は取れねえ、天罰が下されちまう」

「ぼ、僕はそんな大層な者ではないです。ただ所属しているだけで」

「そんなこと言わずどうか収めてくれ、俺には荷が重すぎる」

「見てらんねえな、貸してみな」

 ハロースさんが金貨をかすめ取った。


「おい!」

「慌てんなよ、そのガキがトレニアスの騎士な訳がねえ」

「でも金貨が」

「確かに本物のようだが、討伐騎士なんてその辺で野垂れ死んでるだろ。大方このガキは死体漁りスカベンジャーなんだろ? なぁおい」


 ぐっと胸倉を掴まれて、床にたたきつけられた。

 不意を突かれて受け身すら取れなかった。


「胸糞悪ぃ野郎だ、奪った装備で騎士気取りかよ。ここに来たのもそれが目的か?」

「違います、僕はリガルスの討伐に来たんです」

「ハハハ、聞いたか、リガスルだとよ。もう少しマシな嘘をついたらどうだ」

「嘘じゃありません」

「笑わせんじゃねえ!」


 ドスッ! 突き飛ばすような前蹴りが飛んできた。


「ギルド合同で百人の精鋭を集めて、前線には常に馬車で物資が届けられる。そんな好条件で挑んだ結果、戻ってきたのが無人の馬車だけだ。ガキ一人で何ができるって言うんだ。顔馴染みもまだ戻ってねぇ……お前みたいな屍食鬼グールが立ち入っていい場所じゃねえんだよ」


「ずいぶん親切ね」

「あ?」

「招集を断った臆病者もいたって聞いたけど」

「チッ、つくづく気に入らねえ女だよあんたは。約束の金だ、受け取れよ」

 ハロースさんはピンと金貨をはじいて机に乗せた。


「おいハロース!」

「いいんです、お金ならまだあるので……いてて」

「いいんだとよ、またなダリー。詐欺師どもがいなくなったらまた飲みにくるぜ」


 ハロースさんたちは店を出て行った。


「大丈夫かい?」

「平気です、なんとか」


 ハロースさん、さすが現役の戦士だ。素早く、的確な攻撃だった。


「悪い奴じゃないんだ、だたちょっと気性が荒くて」

「わかってます。それより食事の支払いを」

「いらないって!」


「トレニアス騎士団とジーク卿の紋章、錬金精製の純金。間違いなく本物ね。でも、くんくん……微かに魔族の臭いがする。あなた何者?」


 スクラファさんが初めてこっちを向いた。

 目鼻立ちのくっきりした綺麗な女性だった。


 魔族の臭いっていうのはバッキ―がくれた金貨だからだろう。

 魔法が使える人はそういうことまでわかってしまうのか。


「あ、あの」緊張するな、練習した通りに言うんだ。

「トレニアス騎士団、非正規団員のロイ・イクスと申します。い、以後、お見知りおきを」

 ここで礼儀正しく、しっかりお辞儀をする。


「非正規? 何それ」

 フフフとあきれ顔で笑われてしまった。


 バッキ―ごめん、練習に付き合ってもらったのに。僕はまた上手くできなかったみたいだ。

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