最前の村
アルトランド領地 北西部
ポートを抜けると大きな街道のそばに出た。
かなり近くまで来れたみたいだけど、なんだか様子が変だ。
「人がいっぱいいる……」
話で聞いたことのある都の風景とこんな感じだろうか。
まるで産卵期の陸蟹の群れみたいだ。
お祭りでもあるんだろうか。
道行く人はみんな同じ方向を目指している。
僕が向かう先と同じだ。
なんで?
荷物をたくさん積んだ馬車。
武装した人たち。
戦争でも始まるみたいだ。
誰かに聞いてみようかとも思ったけど、怖くて無理だった。
日暮れになって街道沿いの村へたどり着いた。
どうやらみんなここを目指していたみたいだ。理由はすぐに分かった。
村の入り口に掲げられた横断幕にこう書かれている。
〈大歓迎! ダンジョンスレイヤー様。ようこそ最前の村へ〉
「うわぁ……」
僕はダンジョンスレイヤーという職業を初めて知った。
危険なダンジョンへ入って宝を探したり、ダンジョン化を引き起こしている魔物を討伐してお金を稼ぐ人たちの事らしい。
そしてその人たちを相手に商売をする人たちも集まっていた。
村の入り口からずらっとバザールが開いて、煌々と明かりが灯っている。
本当にお祭りざわぎだった。
「ちょっと、そこのお兄さん! 見たとこ初心者みたいだけど、登録はしたのかな?」
急に派手な服装をした男の人に話しかけられた。
「ダンジョンに挑むならギルドに登録するのがお得だよ! 今なら役立つアイテムプレゼント!」
「あ……いえ……僕は」
戸惑っていると、別の人に肩を叩かれた。
「お兄さんダメだよ、あのギルドは詐欺で有名なんだ。無所属ならうちへ来なよ、家族みたいにあったけぇギルドなんだから」
「なんだとてめえ! 人員使い捨てにしてるくせによぉ!」
「ああん? 登録費ふんだくって放置するおめえらより善良だぜ!」
「あ……あわわわわ」
目の前で喧嘩が始まってしまった。
他の人が止めに入るかと思えば「いいぞ」「もっとやれ」「どっちに賭ける?」とはやし立てる人たちが集まってきた。
「あ、あの……やめましょ? 話し合いで……あの」
僕の声はもう届かない。
集まった人達に押しのけられて僕は蚊帳の外へ。
仕方がない、気を取り直して進もう。
「お兄さん! 剣の整備してる? 今なら安くできるよ!」
「い、いえ。結構……です」
「そこの君! そんな装備じゃ持たないよ。見てこの甲冑! カッコいいでしょ!? 出世払いで構わないからとりあえず着てみよう? ね?」
「ま、まにあってます」
「ボク一人? お姉さんたちとパーティ組まない? きっと忘れられない思い出になるわよ、ウフフ」
綺麗なお姉さんたちの後ろで怖いおじさん達が不気味にほほ笑んでいる。
「一人で大丈夫です!」
言い捨てて逃げた。
ダメだ、怖い。人が多すぎる!
次から次に話しかけられて焦る、変な汗が止まらない、僕はもう下を向いて進んだ。
喧騒から逃れ、村の端に着いた。
薄暗い路地に明かりの灯った建物が一件ある。
看板を見る限り酒場のようだけど、静かだ。人があんまり入っていないのかな。
討伐対象の情報も欲しいし、お腹も減った。
勇気を出して、あの店に入ってみよう
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