第3話 手紙3
ただ、手紙はまだ先がある。それ以上はそこには書かれていないが、次も色々と書いているのだろう。苦痛に身を置きながらも、私の事を案じてくれていた妻。調子のよい日を見つけて、妻は『自分がいなくなったあとの事』を考えて書いていた。だが、あの時の私は、その事を考えないようにしていた。
――ただ、生きてくれ。それだけを考えて励ましていた……。
とめどなくあふれ出る涙と震える手を無理やり制し、私はその続きを読み進める。
「泣くといえば、あなたの涙腺は半分以上壊れてましたね。若い時からそうでしたが、年をとるにつれて、それはますます酷くなってましたよ? ただ、人前ではそれを見せない事が、少し感心する事でもありました。ですが、そのせいなのかは知りませんが、泣ける作品を見るのが好きでしたね。おそらく、そんな姿は私しか知らないのでしょうね。ふふっ、ちょっと得意になっていいですか?」
確かに、泣いたら負けだと言っていた。だから、妻の前でも泣いたことはないはず。そして、あの時もそうだった――。
――ただ、涙など、とうに枯れていると思っていた……。
だが、泣いてばかりもいられない。まだ手紙は続いている。おそらく、この時は調子が良かったのだろう。その日付でその確証は持てないが、確かにそんな日があったことは覚えている。
この手紙を書いている時の妻が、少し笑っているような感じがした――。
「フランダースの犬の劇場版が金曜ロードショーで放映されたときはひどいものでしたよ。そうなるのがわかっているのに、わざわざ見るなんて酔狂なことだと思いました。でも、あれは私の予想を超えた出来事でもありました。まさか、パトラッシュが出ただけで、あなたがテレビの前から消えてトイレにこもるなんて……。あの時の事を思い出すだけで、今もおなかが痛くなるほどです。よかったですね、娘たちが家を出た後で。たぶん、あなたが思う父親の威厳とやらは、それで無くなってましたよ?」
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