第2話 手紙2

「それはそれで気になる事なのですが、今の私にそれを知るすべはありません。でも、どうせあなたの事ですから、もうずいぶん時間が過ぎているのでしょう……。だめですよ? ちゃんと世間に出てくださいね。悲しむ時間はとうに過ぎているのですから……」


 手紙を持つ手が震えるためか、うまく読み進めることができない。目に入ってくる一字一字に、亡き妻の顔が浮かんできた。


「あなたの性格を考えて、娘たちにはあまり口やかましくしないように言ってます。ですが、それも守られているか疑問ですけど……。ただ、プライドだけは高いあなたでしたからね。今のあなたの姿に、娘たちもさぞ戸惑っているに違いありません。人に弱みは見せず、いつも『わけのわからない何かと戦っている』あなた。でも、今そこにいるあなたは、そんなあなたとは全く別人に見えるのでしょうね……。今そこにいるのは、『ただ、そこにいるだけ』のあなた。おそらく、そんな今のあなたには、誰の言葉も届かないのでしょう……。本当に、困った人です。ですが、やはり物事には限度というものがあります……」


 そこでいったんこの手紙は途切れていた。調子のよい時にこれを書いていた妻は、続きを間違えないように区切りをつけて、日付をそこに書いていたのだろう。ただ、それも限界があったのかもしれない。次の紙に書かれていることは、微妙な繋がりとなってしまっている。


「あなたには三人の娘がいるのです。だから頼っていいんですよ、あの子たちに。娘たちに対しても、『頼ったら負け』とか言わないでください。ですが、後でそう思うかもしれませんから書いておきます。良いじゃないですか? 負けたとしても。娘に泣かれるよりはよっぽどいいと思ってください」


 まるで目の前で語りかけてくるような妻の手紙。胸が締め付けられるような感覚に襲われ、私はしばらくそれ以上読み進めることが出来なかった。

 


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